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トランプ大統領 製薬企業に「アメとムチ」―いまだ読めぬ業界への影響

米国のドナルド・トランプ大統領が「アメとムチ」で製薬業界を翻弄しています。

 

大統領就任直前の記者会見では、米国の薬価の高さを槍玉に挙げ、製薬業界を「殺人」という表現を使って攻撃。かと思えば、製薬企業幹部との会談では、薬価の引き下げを要請した一方、新薬承認の迅速化や規制緩和を約束しました。

 

製薬業界の先行きにはリスクとチャンスが共存している――。米ウォール・ストリート・ジャーナルはこんな見方を伝えました。トランプ大統領の就任から2週間余り。まだ先は読めません。

 

薬価高騰に「トランプ砲」引き下げを要請

大統領就任式を間近に控えた1月11日、選挙後初めての記者会見で、製薬業界に「トランプ砲」が直撃しました。トランプ氏はこの日の会見で、製薬企業への批判を展開。ロイター通信によると「製薬企業は(薬価の値上げで)『殺人』の罪を犯しているにもかかわらず、罰せられておらず、政府に多額の費用を負担させている」と強い言葉で攻撃しました。

 

トランプ氏は選挙戦の最中から、高騰する薬価の問題に言及してきました。ホームページに掲載した公約では「製薬産業は民間部門だが、製薬企業は公共サービスを提供している」と指摘。メディケア(高齢者向けの公的医療保険)で給付する医薬品について、現在は法律で禁じられている政府と製薬企業との価格交渉を認めると主張していました。

 

1月11日の会見でトランプ氏は、医薬品の購入に入札制度を導入して費用を削減する方針を表明。「われわれは世界で最も医薬品を購入しているが、適切な価格設定ができていない、これからは入札手続きを行い、一定期間の間に数十億ドルの支出を削減する」と述べました。入札制度の具体的な中身は語られませんでしたが、トランプ氏の発言を受けて、製薬企業の株価は世界中で下落しました。

 

1月31日に行われた製薬企業幹部との会談でも、トランプ氏は薬価の引き下げに意欲を見せました。

 

ホワイトハウスのプレスリリースによれば、トランプ氏は会談で米国の薬価は「天文学的(に高い)」と指摘。「メディケアのため、メディケイド(低所得者向けの公的医療保険)のため、価格を引き下げる必要がある。それ以外に選択肢はない」と述べ、製薬企業に薬価の引き下げを要請しました。

 

新薬承認の迅速化や規制緩和を約束

一方でトランプ氏は、製薬産業を支援する考えも示しています。

 

1月31日の製薬企業幹部との会談では、薬価の引き下げと米国内での製造拡大を求めると同時に、新薬承認の迅速化や規制緩和を約束しました。

 

新薬承認の迅速化は、トランプ氏が大統領選直前に公表した「有権者との契約」にも盛り込まれていました。就任後100日間で実行するとした「契約」では、「お役所的な複雑な手続きの打破」を含むFDA(米国食品医薬品局)の改革を公約。「4000もの医薬品が承認を待っている。特に生命を救う医薬品の迅速な承認を望む」としていました。

 

1月31日の会談でも「私達はFDAを合理化しようとしている」と発言。FDAの合理化を通じて、承認の迅速化と薬価の低減を図る方針を示しました。

 

米国内での製造拡大は、トランプ氏が主要政策として掲げる米国人の雇用創出を狙ったものです。会談では「製薬企業が新しい工場を開くことができないいくつかの問題があることを知っている」と述べ、そのために「膨大な規制を廃止する」との考えを明らかにしました。

 

トランプ氏に呼応する動きも アムジェン「1600人追加雇用」で賞賛

「薬価引き下げ」というムチと、「新薬審査の迅速化」「規制緩和」というアメ。米国の製薬企業の間では、トランプ大統領に呼応するかのような動きも出始めています。

 

ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)の報道によると、1月31日の会談では、米アムジェンのロバート・ブラッドウェイCEOが年内に米国で1600人の雇用を追加すると述べ、トランプ氏の賞賛を浴びたといいます。米国研究製薬工業協会(PhRMA)は会談後に発表した声明で、トランプ氏が約束した規制緩和と減税により「今後10年間で35万人の新規雇用につながる」との見方を示しました。

 

薬価の面でも動きが見られます。

 

米イーライリリーは昨年12月、一部の患者を対象に「ヒューマログ」などのインスリン製剤の価格を最大で4割引き下げると発表しました。米メルクは今年1月、2010年から16年までの医薬品の年間平均値上げ率をまとめた資料を公表。16年が米国で販売する製品の定価を平均9.6%値上げしましたが、保険会社に支払うリベートや値引き、返品を考慮すると、実質的な値上げ幅は5.5%だったといいます。

 

ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、米ジョンソン・エンド・ジョンソンも2月にメルクと同様の資料を公表予定。「アッヴィとアラガンの幹部は、年内に定価を引き上げる医薬品の数と上昇幅を抑えると約束している」といいます。

 

日本には「薬価引き上げ」のプレッシャー?

トランプ氏は薬価の引き下げに強い意欲を示していますが、具体策はまだ明らかになっていません。新薬承認の迅速化や規制緩和は製薬企業にとってはプラスに働くでしょうが、薬価の先行きに不透明感が強いだけに、トランプ政権の政策が全体として製薬業界にどう影響するのか、いまだに読めません。

 

日本の大手製薬企業にとっても、米国は重要な市場です。武田薬品工業やアステラス製薬、第一三共は連結売上高の3割前後、大日本住友製薬は5割近くを米国(「米州」「北米」としている企業もあり)で稼いでいます。塩野義製薬も米国事業の拡大を目指していますし、田辺三菱製薬や協和発酵キリンも米国市場に本格的に進出する方針を明らかにしています。

 

「憶測はまだ早すぎる」。武田薬品のクリストフ・ウェバー社長は1日の17年3月期第3四半期決算の電話会見で、米国市場の見通しについてこう指摘。「新しい政権の政策がどうなるのか、オバマケアがどうなるのか、規制がどうなるのか、様子を見たい」と動向を注視する姿勢を見せた一方、薬価については「リーズナブルな価格で提供している。値上げをしたから伸びているのではなく、イノベーティブだから伸びている」と述べました。

 

さらに気になるのが、日本市場への影響です。

 

ロイター通信によると、トランプ氏は1月31日の製薬企業幹部との会談で「われわれは世界的なタダ乗りをやめさせる」と発言。「国内で開発された医薬品を不公正な安価で海外へ販売できる米国の仕組みに他国が『タダ乗り』していると批判した」(ウォール・ストリート・ジャーナル)といいます。

 

発言の真意は明らかではありませんが、大統領選ではライバル候補だったヒラリー・クリントン氏が「同じ治療でありながら、アメリカ人には高い価格をしい、海外ではるかに低い価格としているのは不公平だ。同じ薬でも欧州では半分の値段で済む」と主張していました。トランプ氏の発言も、クリントン氏が指摘した内外価格差の存在を念頭に置いたものなのかもしれません。

 

ロイター通信はトランプ氏が31日の会談で「他国も医薬品開発で応分の費用を負担すべきとの考えを示した」と書きました。米国では安く、海外では高く売れ――。「米国第一主義」を掲げるトランプ氏は、こんなことを考えているのかもしれません。

 

トランプ氏は就任早々にTPP離脱の大統領令に署名。2国間通商交渉を推進する方針を示しています。1月25日の中央社会保険医療協議会(中医協)では、通商交渉が多国間から2国間に移ることで、米国が日本の薬価制度に対して「引き上げ」の圧力を強めてくるのではないかと指摘が上がりました。トランプ氏の「タダ乗り」批判は、こうした懸念をより強めることになるかもしれません。

 

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