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ニュース解説

薬価の毎年改定で何が起こるのか―薬剤費1900億円削減?新薬開発に支障?流通にも打撃?

薬剤費の増加に歯止めをかけたい政府と、それに反発する製薬業界や医療界の間で、ここ数年、つばぜり合いが続いてきた薬価の毎年改定。「オプジーボ」の薬価引き下げを機に、実施の方向へと一気に舵が切られました。

 

政府は、通常の薬価改定が行われる2018年度以降、薬価を毎年改定する方針を固めました。通常の改定に当たらない“谷間の年”は、市場実勢価格を把握するための薬価調査も簡素化し、薬価と実勢化の乖離が大きい品目に絞って薬価を引き下げる方向で最終調整していると伝えられています。

 

実際、薬価改定が毎年行われると何が起こるのでしょうか。毎年改定を推す政府の経済財政諮問会議と反対する製薬業界、双方の主張をもとにまとめました。

 

 

毎年改定で薬剤費は減る?

 

【推進派】毎年改定で1900億円の医療費削減

政府が薬価の毎年改定に乗り出すのは、市場実勢価格の下落を公定価格の薬価にすみやかに反映させるのが狙いです。2年に1回という現状のサイクルでは、市場実勢価格が下がっても薬価に反映されるまでに時間がかかり、薬剤費の膨張を招いている、といいます。

 

厚生労働省が今年8月24日の中央社会保険医療協議会(中医協)の薬価専門部会に提出した資料によると、2000年度に6.08兆円だった薬剤費は、13年度には8.85兆円まで増加しました。厚労省が9月に公表した15年度の「調剤医療費の動向」によれば、薬剤料は前年度と比べて11.3%増加。「ソバルディ」「ハーボニー」などの高額なC型肝炎治療薬が、薬剤料を押し上げたと指摘されています。

 

薬剤費と薬剤比率の推移

 

毎年改定を推す経済財政諮問会議の民間議員は11月25日の会合で、毎年改定を行った場合の医療費削減額は1900億円程度、うち国の負担分の削減額は480億円程度に上るとの試算を示しました。

 

民間議員の試算は、市場実勢価格が直近4年間の平均的な下落率(年2.1%)で下落したと仮定し、これに直近の薬剤費(13年度の約8.9兆円)を単純にかけて機械的に算出したものです。25日の会合では、民間議員の高橋進・日本総研理事長は「薬価が2年間据え置かれていることによる機会損失はあまりに大きい」と指摘。菅義偉官房長官や麻生太郎財務相も、毎年改定を支持しました。

 

【反対派】仕切価が高く設定され、薬価が高止まりする

一方、毎年改定に反対する立場からは、毎年改定を行うことで逆に薬価が高止まりすると懸念する声が上がっています。

 

日本医薬品卸売業連合会(卸連)は、毎年改定が行われると、メーカー側が薬価の下落を緩やかにするため、仕切価(メーカーから卸への販売価格)を高く設定する可能性があると指摘します。自民党の渡嘉敷奈緒美・厚生労働部会長は12月12日、仕切価が高くなることで薬価が高止まりするなどとして、毎年改定に反対する意見書を塩崎恭久厚生労働相に提出しました。

 

例えば、従来は薬価100円の薬をメーカーが90円で卸に販売し、卸は2円の利益を乗せて92円で医療機関に納入していたとすると、市場実勢価格は92円。薬価改定では、ここから一定の調整幅(現行は2%)を差し引いた分が引き下げられます。

 

一方、卸連や自民党厚労部会が指摘するように、メーカーが仕切価を従来より高い95円に設定した場合、卸が従来通り2円の利益を確保しようとすれば、医療機関への納入価は97円となります。市場実勢価格は従来に比べて5円上がるため、薬価改定を行っても薬価の引き下げ幅は小さくなります。

 

製薬業界「イノベーションに支障」 推進派も促進策の必要性は理解

 

【反対派】企業の競争力が弱体化。イノベーション創出に重大な支障を及ぼす

薬価の毎年改定で製薬業界が最も懸念するのが、収益性の低下。開発に投じた費用を回収できなければ、新薬開発へのモチベーションが損なわれかねません。

 

12月9日に開かれた中医協・薬価専門部会では、日本製薬団体連合会(日薬連)と米国研究製薬工業協会(PhRMA)、欧州製薬団体連合会(EFPIA)の業界3団体が、「企業の競争力を弱体化させ、イノベーションの創出や医薬品の安定供給など、保険医療に貢献する医薬品の提供に重大な支障を及ぼすことになる」と指摘しました。

 

PhRMAとEFPIAはさらに、12月5日、在日米国商工会議所や欧州ビジネス協会などの経済団体とともに毎年改定に反対する共同声明を発表しました。

 

声明では「毎年改定は投資を抑制し、イノベーションを妨げることになりかねない」とし、結果的に「ドラッグラグを短縮することで達成された重要な進展を逆行させ、日本の患者が世界中で開発された最先端の医療技術に素早くアクセスできるようになったという現状を退行させ、日本の公衆衛生を損なうことにもなりかねない」と警告しています。

 

【推進派】イノベーション推進の仕組み確立は必要

一方、毎年改定を推す経済財政諮問会議の民間議員も、イノベーションの推進には理解を示しています。

 

12月7日の会合で民間議員の新浪剛史・サントリーホールディングス社長は「重要なのは革新的新薬を作っていくこと。これを促進していくイノベーションそのものを推進する効果的な仕組みをしっかりと確立する必要がある」と述べました。塩崎厚労相も、研究開発支援の拡充やバイオベンチャー支援といったイノベーション推進策を実施する方針を示しています。

 

12月7日の会合では、国内企業の研究開発費が米国企業と比べて小さいことなどを引き合いに、民間議員から「企業再編も視野に入れた製薬産業の構造強化が重要」との意見も上がりました。塩崎厚労相も再編を含めた産業構造の転換に意欲的です。毎年改定を機に、業界再編が進むことになるのでしょうか。

 

流通にも影 医薬品卸は死活問題

 

【反対派】医療機関との価格交渉が厳しくなる。緊急配送増加で負担増大

薬価の毎年改定は、医療用医薬品の流通の現場にも大きな影を落とします。

 

卸連は、毎年改定によって医療機関との価格交渉が厳しくなる可能性があると懸念しています。先にも書いた通り、卸連は毎年改定が実施されると、メーカー側が薬価の下落スピードを抑えるために仕切価を高く設定する可能性があると指摘しています。医療機関がこれに合わせて納入価を引き上げれば卸の利益は変わりませんが、医療機関が従来と同じ薬価差を要求してきた場合、卸の利益は圧迫されます。

 

塩崎厚労相が12月7日の経済財政諮問会議に提出した資料によると、医薬品卸の15年度の営業利益率は、4大卸(アルフレッサ、メディパル、スズケン、東邦)で1.44%、その他の卸で0.79%と低水準。毎年改定によって価格交渉がどうなるかは、医薬品卸にとって死活問題です。

 

卸連はさらに、薬価改定の頻度が上がることで、医療機関が在庫を絞り、緊急配送が増えるため、卸に大きな負担がかかるとも指摘。市場実勢価格を把握するための薬価調査を毎年行うことも、卸にとっては大きな負担です。医療機関側からすれば、薬価の引き下げは在庫の価値を減少させます。自民党の厚労部会長は、塩崎厚労相に提出した意見書の中で、薬局の倒産危機を招くと懸念を示しました。

 ※ ※ ※

政府は年内に、毎年改定の実施を含む薬価制度の抜本改革に向けた基本方針をまとめ、具体的な手法は来年、中医協で検討されることになります。医療費や新薬開発、医薬品の流通や医療機関の経営と、広い範囲に影響が及ぶことになる薬価の毎年改定。反対意見も根強い中、納得性の高い制度の構築が求められます。

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