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政策・制度

「タケプロン」「ムコスタ」「ノルレボ」など候補に…スイッチOTC 新たな仕組みで促進なるか

医療用医薬品を医師の処方箋なしに買える一般用医薬品に転用する、いわゆる「スイッチOTC」。購入額が一定以上となった場合に所得控除の対象となる「セルフメディケーション税制」のスタートを来年1月に控える中、転用を促進するための新たな仕組みが動き出しています。

 

厚生労働省は12月9日、新たな仕組みの下で転用の候補となる医薬品のリスト第1弾を公表。「タケプロン」などのプロトンポンプ阻害薬や胃炎薬「ムコスタ」、緊急避妊薬「ノルレボ」などがリスト入りしました。

 

医療費削減や健康増進の観点から必要性が叫ばれながら、一向に拡大しないスイッチOTC。新たな仕組みで、転用は進むのでしょうか。

 

 

「セルフメディケーション税制」でスイッチOTC使用推進

2017年1月から、医療費控除の特例として、医療用医薬品を一般用に転用した「スイッチOTC」を一定額以上購入した場合に所得控除を受けられる「セルフメディケーション税制」がスタートします。

 

セルフメディケーションは世界保健機関(WHO)で「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当すること」と定義され、国は国民の健康増進や医療費削減の観点からこれを推進したい考えです。

 

セルフメディケーション税制の対象となるのはスイッチOTC。今年10月時点で1525品目あり、厚生労働省のホームページに一覧表が掲載されています。年間購入額が1万2000円を超えた分が、8万8000円を上限に所得控除の対象となります。

 

例えば、課税所得400万円(所得税率20%)の人がスイッチOTCを年間2万円購入したとすると、1万2000円を超えた分の8000円が課税所得から控除されます。この場合、控除額8000円に20%をかけた1600円が戻ってくる計算です。加えて、住民税も減税されます。

 

スイッチ候補選定に一般消費者のニーズも

新税制の創設で、国はスイッチOTCの使用を促進したい考えですが、日本ではなかなか転用が進んでいないのが現状です。そこで厚労省は今年度、医療用からの転用を認めるかどうかを決めるプロセスを見直しました。

 

従来は、日本薬学会が転用が妥当と考えられる医薬品のリストをとりまとめ、厚労省審議会で転用の可否を決めていましたが、今年8月からは学会だけでなく、団体や企業、一般消費者からも広く転用の提案を受け付けるようにしました。さらに、医学・医薬の専門家だけでなく、一般の医療関係者や消費者の代表も参加する検討会議を新設。スイッチOTC化を検討するプロセスに消費者のニーズをはじめとする多様な意見を反映させることで、開発・発売を加速させることにしました。

 

スイッチの提案の募集は今年8月に開始。厚労省は12月9日、11月までに提案のあったスイッチOTCの候補となる医薬品16成分のリストを初めてホームページ上で公表しました。提案は随時受け付けており、厚労省は定期的に提案のあった医薬品のリストを公表することにしています。今回はその第1弾です。

 

今回、候補として挙がった医薬品16成分を表にまとめました。「タケプロン」「パリエット」などのプロトンポンプ阻害薬(PPI)や胃炎・胃潰瘍治療薬「ムコスタ」、緊急避妊薬「ノルレボ」などが含まれています。「イミグラン」「アマージ」などの片頭痛治療薬や、ドライアイ治療薬「ヒアレイン」も候補に挙がりました。

 

スイッチOTCの候補として提案のあった医薬品

 

今回、厚労省が公表したスイッチOTCの候補16成分は今後、関係学会や産業界の意見も聞きながら、新設された検討会議で転用の可否が検討されることになります。

 

スイッチ促進に影落とすエパデール

医療費削減や利便性、健康増進の観点から必要性が叫ばれながら、日本では医療用から一般用へのスイッチがなかなか進んでいません。

 

従来の仕組みでは、08~15年に22成分のスイッチOTC化が認められましたが、このうち実際にスイッチOTCとして発売されたのはわずか5品目。「ムコスタ」や「ヒアレイン」は従来から候補に挙がっていたにも関わらず、いまだに転用は実現しておらず、今回もまた候補に挙がってきました。

 

厚労省の研究班が15年に公表したOTC医薬品に関する研究報告書によると。今回候補に入ったPPI「オメプラール」がOTC化されていないのは、日米英独仏豪とニュージーランドの7カ国のうち日本だけ。「ノルレボ」も日本とドイツを除いてOTC化されています。

 

医師会反対で厳しい販売規制 スイッチの意義骨抜き

スイッチOTCがなかなか進まない日本の現状を象徴する出来事に、日本初の生活習慣病領域のスイッチOTCとして注目を集めた高脂血症治療薬「エパデール」をめぐるゴタゴタが挙げられます。

 

1999年から医療用医薬品として販売されている「エパデール」は、厚労省審議会での検討を経て、08年スイッチOTC化が了承。これを受けて持田製薬がスイッチOTCを申請しました。

 

ところが2010年、「生活習慣病領域はスイッチOTC化になじまない」と日本医師会が反対したことで、厚労省は承認を一旦見送り。12年、2年越しでようやく承認されましたが、反対する医師会の意向を受け、販売は「中性脂肪が正常値よりも高いものの、医師からすぐに通院治療を始める必要はない人」に限定。メーカー主催の研修を受けた認定薬剤師のいる店舗でしか販売できないなど、厳しい販売条件が課されました。

 

医師の診断を受けないと購入できないのでは、スイッチOTC化する意義はほとんどなく、販売も低調に。「エパデール」のスイッチOTCは、持田製薬とライセンス契約を結んだ大正製薬と日水製薬から13年4月に発売されましたが、日水製薬は14年、承認時に義務付けられた適正使用調査の症例を集めることが難しいとして、販売から撤退。現在は大正製薬のみが販売を続けています。

 

「かかりつけ医の管理下で服用すべき」

日本医師会は「エパデール」の承認をめぐる議論の過程で、

「スイッチOTCは、自覚症状があって、比較的短期間の服用でそれが改善することが分かって、自分で中止することを判断できるものに限定すべき」

「生活習慣病は自覚症状がなく、かかりつけ医を中心とした医師の管理下で服用するのが大前提」

「我が国の医療制度は非常にアクセスがよく、世界に冠たる制度なので、遠慮なくかかりつけ医を受診して相談するのがよい」

といった理由で、生活習慣病治療薬のスイッチOTC化に強く反対。それ以降、スイッチOTCの承認は停滞気味で、「エパデール」の一件はスイッチOTCの促進に大きな影を落としています。

 

承認プロセスは従来のまま

こうしたこともあってか、政府が14年6月に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略」の改訂版には、スイッチOTCを加速するため「産業界・消費者等のより多様な主体からの意見が反映される仕組みを構築」すると明記されました。厚労省がスイッチOTCの候補選定プロセスを見直したのは、こうした政府の方針を受けてのものです。

 

専門家だけで行われていた転用の可否を検討するプロセスに一般消費者のニーズが反映されることになったのは大きな前進と言えます。しかし、これでスイッチOTCが進むかというと、そうとは言い切れない部分もあります。

 

厚労省が導入した新たな仕組みでは、転用を認めるかどうかを検討するプロセスこそ広くニーズを集め、透明性を高める仕組みとなったものの、実際に承認の可否を検討するプロセスは従来のまま。専門家や医師会、薬剤師会などが非公開の審議会で審議することになります。

 

「エパデール」は、スイッチOTCの候補として認められていたにも関わらず、承認の可否をめぐる議論で厳しい販売規制が敷かれ、OTC化の意義が骨抜きにされました。ニーズが大きく、転用が認められたものであっても、承認の過程で「エパデール」と同じようにほとんど売れないような条件が課される可能性は残っています。

 

医師会が反対する理由も分からないわけではありませんが、薬剤師がしっかり関与すれば医療機関で治療が必要な患者の掘り起こしにもつながることも期待されます。医療費削減の効果や利便性の向上といったメリットも小さくはないはずです。

 

新たな仕組みでスイッチOTC化は進むのでしょうか。注目が集まります。

 

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