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その「バイアグラ」本物ですか?―ネット購入のED薬、4割が偽造品 「死に至る副作用も」専門家が警告

更新日

インターネットで購入したED(勃起不全)治療薬の4割がニセモノ――。日本国内でED治療薬を製造販売する製薬会社4社が合同で行った調査で、ネットを通じて偽造医薬品が日本国内に流入している実態が明らかになりました。

 

潜在的な患者数は1130万人に達するとも言われている一方、医療機関で治療を受けている人は1割にも満たないというED。疾患の性質上、受診を敬遠し、ネットに流れる患者も多いといいます。

 

4社の調査では、有効成分がほとんど含まれていないものや、逆に本物の1.5倍多く含まれているもの、本物には含まれていない物質を含有しているものが見つかっており、健康被害の報告も。偽造薬を見分けるのは難しく、専門家は「ネットで薬を買うのは危険」と警鐘を鳴らしています。

 

 

「日本だから大丈夫ということはない」

白い粉にまみれた、古ぼけた機械。着色料なのか、地べたには青色の液体が入ったバケツが無造作に置かれ、包装用のフィルムが散乱している――。一見するととても清潔とは言えない場所で“医薬品”がつくられていると聞いて、にわかに信じられる人はいないでしょう。

 

医薬品といっても、ここでつくられているのは正規のものではなく「偽造品」。これは、海外で摘発された偽造医薬品の製造現場です。

 

日本でED治療薬を製造販売するファイザーとバイエル薬品、日本新薬、日本イーライリリーの4社は2016年3~8月、日本とタイで、「バイアグラ」「レビトラ」「シアリス」のED治療薬3ブランドを取り扱う日本語の個人輸入代行業者のサイトからED治療薬を購入し、本物かどうかを調べました。

 

11月24日に発表された調査結果によると、入手した70サンプルのうち、40%が偽造品だったことが判明。偽造品の割合は、国内発注分(45サンプル)で35.6%、タイでの発注分(25サンプル)で48.0%に上りました。

 

製薬企業4社による偽造ED治療薬調査結果

 

税関での輸入差止も増えています。財務省によると、15年に日本の税関で輸入差止となった偽造医薬品は1030件、錠数にして8万8453錠。件数は10年前(11件)に比べて100倍に増え、錠数も前年(4万3522錠)の2倍以上に増加しました。その大半はED治療薬だと報告されています。

 

海外では正規ルートにも偽造薬が侵入する中、医薬品卸売業者を核とする強固な流通網が偽造薬の流通を防いできた日本。ところが、ネットという新たな流通経路の拡大により、そうした状況も変化しています。

 

「日本は大丈夫だとは言えない。日本だから偽造薬から防御されているということはない。安心していると入ってくる」。偽造薬問題に詳しい金沢大医薬保健研究域薬学系の木村和子教授はこう警告します。

 

バイアグラの偽造品と真正品

バイアグラの偽造品と真正品。右の3つが真正品、残りはすべて偽造品

 

含有成分はデタラメ「死に至る副作用も」

怖いのは、偽造薬を服用することで起こる健康被害。調査に関わった昭和大藤が丘病院泌尿器科の佐々木春明教授は「偽造薬には何が含まれているかわからない。どういう場所で製造されているかもわからない。品質保証は全くできない」と指摘します。

 

今回の調査で入手したサンプルの含有成分を4社が分析したところ、
▽正規品の最大容量の1.5倍の有効成分を含んだもの
▽有効成分がほとんど含まれていないもの
▽正規品にない規格をうたうもの
▽商品名の成分ではなく、ほかのED治療薬の成分が含まれていたもの
▽正規品には含まれていない物質を含んだもの
が見つかりました。

 

有効成分が含まれていなければ効果がないのはもちろん、承認用量以上の有効成分を含んでいたり、正規品にない物質を含んでいたりする場合は、予期せぬ副作用や未知の症状が引き起こされる可能性もあります。

 

ED治療薬を製造販売する製薬会社には、
「不整脈が出た」
「下痢と嘔吐を起こした」
「胸を圧迫されるような痛みや、首や背中に鈍痛が出た」
「意識を失い痙攣を起こした」
「目の前が真っ暗になった」
など、偽造ED治療薬による健康被害の情報が寄せられているといいます。

 

奈良県では2011年、ED治療薬の偽造品を飲んだ男性が意識障害を起こし、病院に搬送される事例が発生。服用との関係は明らかではないものの、呼吸困難で死亡した男性の衣服から偽のED治療薬が見つかったケースも報告されています。

 

EDは疾患の性質上、「恥ずかしい」「どんな診察をされるかわからない」といった理由から、医療機関の受診を避け、ネットで治療薬を買う患者も多いといいます。「手軽に変えればいいと考える患者は多いが、死に至る副作用が出現する可能性がある」。佐々木教授は警鐘を鳴らします。

 

レビトラとシアリスの偽造品と真正品

レビトラ(上)とシアリス(下)。いずれも左が偽造品、右が真正品

 

EDだけではない偽造薬 ダイエットや美容でも

偽造薬の問題は、ED治療薬だけにとどまりません。ヘルスケア分野を中心に、違法なインターネットサイトを調査・監視しているレジットスクリプトの岡沢宏美・アジア政策・執行部長によると、肥満症治療薬やまつ毛育毛剤、避妊薬などを違法に販売するサイトも多く存在しています。

 

レジットスクリプトは2013年から、厚生労働省の委託を受け、日本の医薬品医療機器法に違反する違法なサイトについて、レジストラ(ドメイン名登録会社)に削除要請を行う業務を実施。15年度は1年間で1900件以上のサイトを閉鎖に追い込みましたが、それでも違法な販売サイトは後を絶ちません。

 

偽造薬は一見しただけでは正規品と見分けがつかず、まして中に何が含まれているかを知るのは不可能。「本物」「海外製のジェネリック」などと偽って販売されており、注意する必要があります。やはり、安易にネット購入に手を出すよりも、医療機関を受診するのが賢明です。

 

日本国内で販売されているED治療薬

 

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