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【米大統領選】「安価な医薬品の市場参入促進」「FDA改革」…トランプ氏の医薬品政策をあらためて振り返る

世界中が固唾を飲んで見守った11月8日(現地時間)の米大統領選。共和党のドナルド・トランプ氏が激戦を制し、次期大統領の座を射止めました。

 

トランプ氏の勝利で、民主党のヒラリー・クリントン氏が主要公約に掲げていた薬価引き下げの圧力が弱まるとの観測から、欧米の製薬株は軒並み上昇。トランプ大統領の誕生は製薬業界にとっては追い風と受け止められているようですが、果たしてどうでしょうか。トランプ氏が選挙戦で訴えた医薬品政策をあらためて振り返ります。

 

 

メディケアで薬価交渉 処方薬の輸入解禁

米国で社会問題となっている、一部製薬企業による薬価の吊り上げ。15年には、チューリング・ファーマシューティカルズが感染症治療薬「ダラプリム」の価格を突如55倍に引き上げたことに批判が噴出。今年夏には、マイランがアナフラキシーショックの応急処置に使われる「エピペン」の価格を5倍に引き上げ、非難を浴びました。

 

高騰する薬価への対応は大統領選でも議論になりました。トランプ氏はホームページに掲載した公約で「製薬産業は民間部門だが、製薬企業は公共サービスを提供している」と、薬価を吊り上げて利益を上げる一部製薬企業の経営手法を批判しました。

 

クリントン氏と比べるとマイルドな主張

薬価の削減策としてトランプ氏が選挙戦で言及したのは2点。1つはメディケア(高齢者や障害者向けの公的医療保険)で給付する処方薬について、政府が製薬企業と直接、価格交渉を行うこと認めること。もう1つは、安価な処方薬の輸入を解禁することです。

 

米国では現在、政府が製薬企業と直接、薬価交渉を行うことは認められていません。自由競争は米国社会の大原則。公的医療保険で使われる医薬品も例外ではありません。

 

「価格交渉ができないなんて信じられるか」。トランプ氏は集会などでたびたび、製薬企業との価格交渉が認められていない状況を疑問視。価格交渉が可能になれば年間3000億ドル以上のコストが削減できると繰り返し発言してきました。

 

トランプ氏はまた、現在禁止されている処方薬の輸入を解禁することを公約の1つに掲げています。自身のホームページに掲載している公約では「安全で信頼性が高く、安価な製品を提供する薬剤プロバイダに対し、自由市場への参入障壁を取り除く」と主張。「海外から輸入された安全で信頼性の高い医薬品へのアクセスを認めることは、消費者にさらなるオプションをもたらすだろう」としています。

 

メディケアでの薬価交渉も、処方薬の輸入解禁も、クリントン氏と主張はほぼ一致していました。ただ、クリントン氏が▽特許の切れた治療薬の不当な値上げに対し、政府が罰則を科す▽処方薬の患者負担に上限を設ける―など、より踏み込んだ処方薬のコスト削減策を打ち出していたのに比べると、トランプ氏の薬価政策はマイルドです。クリントン氏の強硬な薬価抑制策には、米国研究製薬工業協会(PhRMA)が「イノベーションの時計を元に戻すだろう」などと反発の声も上がっていました。

 

FDAの審査迅速化 NIHへの支出は「ムダ」

トランプ氏は、投開票を間近に控えた10月22日、13項目からなる「有権者との契約」を公表しました。「アメリカを再び偉大にするため」、就任後100日で実行するとしています。

 

この中でトランプ氏はFDA(米国食品医薬品局)の改革を公約。改革にはFDAの「お役所的な複雑な手続きの打破」も含まれるとし、「4000もの医薬品が承認を待っている。特に生命を救う医薬品の迅速な承認を望む」と審査の迅速化を求める方針を示しました。

 

一方、トランプ氏の勝利に懸念を示すのは、米国の科学者たち。科学雑誌「ネイチャー」電子版は11月9日、「ドナルド・トランプの大統領選勝利は科学者たちを気絶させる」「米大統領選の結果に科学者たちはどう反応したか」と題する記事を掲載。米国の科学政策、とりわけ研究費の配分に懸念を示す科学者たちの声を伝えました。

 

イノベーションに対する関心が欠如?

なぜでしょうか。理由の1つとして挙げられるのが、米国の医学研究の司令塔である国立衛生研究所(NIH)に対する政府の支出を「ムダだ」と切り捨てたことにあります。

 

米国の民間シンクタンク・情報技術イノベーション財団(ITIF)が、演説や討論会、新聞報道などをもとにトランプ、クリントン両氏の科学技術政策を整理した報告書によると、トランプ氏は「NIHについてはよく聞くが、それはひどい」と発言。NIHに対する多額の政府支出はムダと考えているといいます。医学研究への資金を増やすべきとするクリントン氏とは対照的で、報告書はトランプ氏について「イノベーションに対する政策的関心が全体的に欠如している」と指摘しています。

 

また、米国の非営利組織ScienceDebate.orgが学会などとともに大統領選候補者に科学技術政策への見解を求めたアンケートでは、トランプ氏は公衆衛生政策について「財源が限られる中、公衆衛生機関に単純に資金を投じることはできない。議会と協力しながら国家の優先課題を確定させ、その実現のために資源を配分する」と回答。資金投入の選択と集中を進める考えを示しました。

 

これも「公衆衛生緊急対応基金を創設し、複数年の一貫した予算の下、保健福祉省や疾病管理センター、連邦緊急事態管理庁、地方の公衆衛生部門、医療機関、その他の政府機関が公衆衛生上の危機やパンデミックに迅速かつ積極的に対応するための取り組みを行う」としたクリントン氏とは対照的です。

 

見えぬ部分多く 行方は不透明

こうした政策を掲げるトランプ氏ですが、医薬品政策はどうなるのでしょうか。

 

トランプ氏は処方薬の輸入解禁に関連し、「議会は特別な利害関係から離れ、アメリカにとって正しいことをする勇気が必要だ」と迫っています。

 

メディケアの薬価交渉にしても、処方薬の輸入解禁にしても、実現性はかなり不透明です。大統領選と同時に行われた議会選挙では、上下両院とも製薬業界を主要な支持基盤の一つとする共和党が多数を握りました。そもそもトランプ氏の本気度も未知数。「ポピュリスト」と呼ばれるトランプ氏ですので、薬価高騰への批判を自身の支持に取り込みたいとの思惑もあったのかもしれません。

 

トランプ氏の勝利で、クリントン氏が主張していたような薬価抑制のプレッシャーは弱まったとの見方が広がっていますが、実際は見えない部分が多いのが現状です。

 

トランプ氏は、選挙のキャッチフレーズ同様、製薬産業も“偉大に”するのでしょうか。オバマケアの廃止やTPP離脱など、日本の製薬企業にも大きな影響を与える可能性があります。注意深く見ていく必要がありそうです。

 

■参照■

・Donald Trump「Healthcare Reform

・Donald Trump「Donald Trump’s Contract with the American Voter

・Information Technology & Innovation Foundation「Clinton vs. Trump: Comparing the Candidates’ Positions on Technology and Innovation

・Sciencedebate.org「Trump, Clinton, Johnson and Stein’s Views on America’s Top 20 Science, Engineering, Tech, Health & Environmental Issues in 2016

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