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第1号承認で本格スタートした患者申出療養―「時間」「情報」「費用」課題は残されたまま

今年4月に創設された、患者が希望する国内未承認の治療と保険診療の併用を認める「患者申出療養制度」。9月21日、厚生労働省の有識者会議がその第1号となる治療を承認し、制度が本格的にスタートすることとなりました。

 

「困難な病気と闘う患者の治療選択肢を広げる」との理念を掲げる新制度ですが、売りとする「迅速さ」や高額な費用負担など、課題は多く残されたままです。

 

 

第1号は胃がんへの抗がん剤腹腔内投与

厚生労働省の患者申出療養評価会議は9月21日、「腹膜播種陽性または腹腔細胞診陽性の胃がん」に対する国内未承認の治療を、患者申出療養の第1号として承認しました。胃がんが進行して腹膜に転移した患者に対し、抗がん剤パクリタキセルを静脈と腹腔内の2つの経路で投与するとともに、抗がん剤S-1の内服を併用するもの。10月から東京大病院を中心に行われ、100人が治療を受ける予定といいます。

 

患者申出療養とは…希望の治療を「早く」「近く」で

患者申出療養は、2016年4月に新たに創設された制度。文字通り「患者の申し出により」、国内未承認の治療を「迅速に」「身近な医療機関で」、保険診療と併用して受けられるのが特徴です。

 

患者申出療養とは、先進的な医療について、患者の申出を起点とし、身近な医療機関で迅速に受けられるようにするもの

 

ご存知の通り、日本では、公的医療保険が適用される「保険診療」と、適用されない「自由診療」を併せて使う「混合診療」は原則禁止されています。併用する場合は、保険診療の部分も含めて全額自己負担しなければなりません。ただし、患者の利便性などの面から、例外的に保険診療との併用が認められているものがあります。それが「保険外併用療養費制度」です。

 

保険外併用療養費はこれまで、将来の保険適用を前提に有効性と安全性を評価する「評価療養」と、保険適用を前提としない「選定療養」の2つのカテゴリに分類されてきました。前者の代表的なものが「先進医療」や「医薬品・医療機器の治験」など、後者は「差額ベッド代」や「時間外診療」「予約診療」「大病院の初再診」にかかる追加料金などです。

 

患者申出療養は、この保険外併用療養費制度の3つ目のカテゴリとして位置付けられた新しい制度。国内未承認の治療と保険診療の併用は、すでに「先進医療」として部分的に認められていますが、大きく異なるのは「患者の希望」が起点となっている点です。

 

保険外併用療養費制度の種類

 

先進医療は厳しい要件に該当する医療機関で、一定の基準を満たした患者しか受けることができませんが、患者申出療養では▽先進医療を行っていない身近な医療機関で治療を受けたい患者▽先進医療の基準を満たさない患者▽先進医療として実施されていない治療を受けたい患者――にも、国内未承認の治療を受ける道が開かれるとされています。

 

迅速さも患者申出療養の売りです。先進医療では治療実施の可否を判断するのに数か月かかりますが、患者申出療養として初めて実施する治療の場合は原則6週間、すでに患者申出療養として行われている治療の場合は原則2週間で、治療実施の可否を審査します。

 

利用できる医療機関の幅も広がり、協力医療機関として承認されれば、わざわざ遠くの大病院まで行かなくても、かかりつけ医など身近な医療機関でも治療を受けることが可能になるといいます。

 

患者申出療養の仕組み

 

「入り口」に横たわる課題

希望する未承認の治療を早く、身近な医療機関で受けられるようにすることで治療選択肢を広げることは、難病やがんなど困難な病気と闘う患者にとって歓迎されることでしょう。一方で、制度には課題も多く残されています。

 

審査は迅速化も 申し出までに相当な時間?

1つは、制度が売りにする「迅速さ」。4月14日に開かれた患者申出療養評価会議の初会合では、患者が治療を希望してから実際に治療が始まるまでにかなりの時間がかかるのではないか、との懸念が患者団体から示されました。申し出からは2週間ないし6週間で治療の可否が判断されますが、申し出という制度の「入り口」に立つまでには▽治療法に関する情報収集▽患者との話し合い▽具体的な治療計画の策定――といったプロセスが必要で、ここに相当な時間がかかるのではないか、というのです。

 

実際、会議ではこんなやりとりがありました。

 

「この会議にかかれば6週間以内ということだが、そこに至るまでの期間、これは相当程度かかるのではないかと感じている。事務局(厚生労働省)としてはどの程度の期間がかかると想定されているのか」(天野慎介・全国がん患者団体連合会理事長)

 

「エビデンスの収集、患者の同意や理解の確認、実施計画の策定、(実施医療機関の)倫理審査委員会などもあるので、相当程度の時間はかかるだろうと思っている。それが何か月なのかというところについてまで具体的な相場観を持っているわけではない」(厚生労働省)

 

「あくまでも私個人の意見だが、デザインを考えてやり始めるところまでは、どんなに頑張っても半年から1年は絶対かかるというのが実感だ」(山崎力・東京大病院臨床研究支援センター長)

 

「患者の立場からすると、短縮できるところがあれば少しでも短縮していただきたいという思いがある」(天野氏)

 

患者が正しい情報にたどり着けるか?

「入り口」への懸念はまだあります。同じ会議では日本難病・疾病団体協議会の原田久生理事が「患者自身が正しい情報を持って相談に行けるかが疑問」と指摘。患者はかかりつけ医と相談しながら自分で受けたい治療の情報を集めることになりますが、玉石混交の中から正確な情報を集めるのはかなり難しいのが現状です。

 

大学病院などの特定機能病院には患者向けの相談窓口も設けられましたが、かかりつけ医の役割はやはり重要。日本医師会の石川広己常任理事は「正確な情報を医師会を通じて発信していきたい」と述べましたが、専門性の違いもあり、かなりの負担が予想される中、「かかりつけ医が本当に対応できるのか」は拭いきれません。

 

重くのしかかる高額な薬剤費

高額な薬剤費も患者に重くのしかかります。

 

厚生労働省は9月21日の評価会議に、国立がん研究センターがまとめた国内未承認・適応外の抗がん剤のリストを提示しました。

 

7月4日時点でリストに掲載された50種類の抗がん剤のうち、日本人の50歳代の平均的な体格の人に投与した場合の1か月あたりの薬剤費(一部1コースあたりのもののある)が100万円を超えるのは、半数以上の32種類。リストには、

 

ペグアスパラガーゼ(L-アスパラキナーゼ過敏性の急性リンパ性白血病)646万4000円
ブリナツモマブ(フィラデルフィア染色体陰性の再発再燃の前駆B細胞性急性リンパ性白血病)592万2000円
ビンクリスチン硫酸塩 リポソーム注射剤(二回目以降の再発または2つ以上の治療に増悪した急性リンパ性白血病)472万1000円

 

などと高額な薬剤が並びます。中には、コース(36週)あたりの薬剤費が1900万円にも上るミファムルチド(非転移性で顕微鏡的に完全切除後の骨肉種)という薬剤もリストアップされています。

 

負担軽減はごくわずか?

国立がん研究センターのホームページには、「未承認薬を用いた場合の患者さんが自ら支払う医療費(モデルケース)」という試算が掲載されています。国内未承認のオラパリブという抗がん剤を卵巣がん患者に投与した場合、投与開始1ヶ月目(外来通院週1回、28日間内服)の医療費は、

 

自由診療の場合 119万7560円【薬剤費113万4000円(自費)+その他医療費6万3560円(自費)】
混合診療(患者申出療養)の場合 115万3068円【薬剤費113万4000円(自費)+その他医療費1万9068円(3割負担)】
保険診療となり、高額療養費制度が適用された場合 8万9405円

 

患者申出療養の場合、保険診療分が3割負担で済むので自由診療に比べれば安くなるものの、その差はわずか4万4000円程度。全額自己負担となる薬剤費がそもそも高額なため、患者負担が大きく軽減されるわけではないということをこの試算は物語っています。

 

患者申出療養は先進医療と同様、将来の保険収載を前提に行われるものですが、先進医療から保険収載につながったものは今のところごくわずか。患者申出療養でも、新たな治療法が保険外に留め置かれ、保険適用が遅れるのではないかとの懸念は根強くあります。そうなれば、患者や家族の経済力によって、受けられる治療に格差が生まれてしまうことになりかねません。

 

医療費の削減圧力も高まる中、スピーディーな保険収載をどう担保していくのか。大きな課題が横たわっています。

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