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ニュース解説

バイオベンチャー、続く苦難…振興のカギは?

ここ数ヶ月、日本のバイオベンチャーにネガティブなニュースが相次いでいます。

 

5月にアキュセラ・インクが、そして7月にはアンジェスMGが、それぞれ期待の新薬候補で臨床第3相試験を失敗。ナノキャリアが導出し、日本化薬が開発を進めていた抗がん剤も、臨床第3相試験で主要評価項目を達成できず、カルナバイオサイエンスは米ヤンセンからライセンス契約の終了を宣告されました。

 

こうした中、厚生労働省の有識者懇談会が7月、バイオベンチャーへの支援策を盛り込んだ報告書をまとめました。政府もベンチャーの振興に本腰を入れる方針ですが、そのカギはどこにあるのでしょうか。

 

 

相次ぐP3試験の失敗

今年は、バイオベンチャーにとって厳しい年になるかもしれません。各社期待の新薬候補が、開発の最終段階で相次いで頓挫しているからです。

 

「飲むサングラス」加齢黄斑変性で開発中止

まずは、東証マザースに上場する米アキュセラ・インク。5月26日早朝、ドライ型加齢黄斑変性を対象に開発を進めていたエミクススタトが、臨床第2b/3相(P2b/3)試験で主要評価項目を達成できなかったと発表。ドライ型加齢黄斑変性には治療選択肢がほとんどなく、しかも1日1回の経口投与とあって高い期待を集めていましたが、プラセボとくらべて萎縮病変の進行に差は見られませんでした。

 

そこに追い打ちをかけたのが、共同開発を行ってきた大塚製薬との提携打ち切り。P2b/3試験のトップラインデータでは、一部の遺伝子プロファイルを持つ患者への有効性も確認されましたが、提携の終了によってこれも中止に。「飲むサングラス」と期待された新薬候補の開発は、申請目前で頓挫してしまいました。

 

アンジェスMG、ナノキャリアも

「アキュセラ・ショック」も冷めやらない7月5日には、アンジェスMGがアトピー性皮膚炎治療薬として開発中のNF-κBデコイオリゴDNA軟膏製剤が、国内P3試験で主要評価項目を達成できなかったと発表。畳み掛けるように、日本化薬も同日、ナノキャリアのDDS(ドラッグ・デリバリー・システム)を使った抗がん剤内包高分子ミセルについて、乳がんを対象としたP3試験で主要評価項目を達成することができなかったことを明らかにしました。

 

いずれも承認申請を目前に控え、投資回収の期待が高まっていただけに、株価は大きく下落。アキュセラは発表から5日連続でストップ安となり、株価は5分の1まで縮みました。アンジェスMGも発表後2日連続でストップ安に。新薬開発のリスクの高さを改めて印象付け、投資家心理を冷え込ませました。

 

「カネ」「規制」「人材」が課題に

こうした中、有識者による厚生労働省の「医療イノベーションを担うベンチャー企業の振興に関する懇談会」が7月29日、ベンチャー振興策を盛り込んだ報告書を取りまとめました。

 

日本では長らく、バイオベンチャーが育たないと言われてきました。米国では新薬の半分はベンチャー由来だと言われていますが、日本では成功事例が少なく、欧米に大きな遅れをとっているのが現状です。報告書では、後発医薬品の普及で先発医薬品の市場が縮小する中、新薬を開発するにはベンチャーの振興が必要と指摘。「ベンチャーの振興策への注力なしでは、明るい未来を期待しがたい」とまで書き込みました。

 

日本に新薬のタネがないわけではありません。例えば、ファイザーが2012年に発売したALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がん治療薬「ザーコリ」(クリゾチニブ)は、自治医科大教授の研究成果をもとに開発された薬。話題の免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」が標的とするPD-1も、日本人研究者の発見です。こうした国内に眠るタネを逃さずモノにしていくためには、ベンチャーの振興が重要だと言います。

 

その課題として報告書で指摘されたのが、「カネ」と「規制」、そして「人材」です。新薬開発には長い時間がかかり、それを支える膨大な資金が必要ですが、ベンチャー投資は乏しく、政府や財団による資金面での支援も弱いのが実情。薬事や公的保険など規制も多く、必要な人材確保も困難です。

 

「エコシステム」の形成がカギ

報告書がベンチャー振興の最大のカギとして位置付けるのが、「エコシステム」の形成です。

 

エコシステムとはもともと「生態系」を意味する言葉で、起業家や大手企業、大学・研究機関、金融機関、公的機関などが結びつき、起業と成長を継続的に生み出す仕組みのこと。代表的なのは世界のベンチャーの中心地・米シリコンバレー。新たな技術やビジネスモデルを用いたベンチャーが次々と育ち、それがさらなる技術や人材、資金を呼び込むという好循環で発展を続けています。

 

人材の交流・育成が最重要課題

しかし、残念ながら今の日本には、このベンチャー・エコシステムは存在しません。「エコシステムは人が命」と言われますが、産官学を通じた人材の流動性が低い日本では、人材の育成・活用が進んでこなかったからです。

 

この課題を克服するためには、人材の交流や移動を促進し、必要な人材を育てていくことが重要です。報告書ではこの具体策として、大手企業とベンチャー、それぞれの幹部を引き合わせるマッチングサポートを厚労省主導で行うことや、人材をデータベース化し、ベンチャーのニーズに応じてマッチングを行うことが盛り込まれました。

 

厚労省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)と金融機関やベンチャーの間で人材交流を行うことで、先端技術の「見極め」ができる人材を育て、ベンチャーと金融の橋渡しの促進につなげることも必要と指摘されています。

 

ベンチャーのイノベーションを評価する薬価制度を構築

エコシステムの形成に向け、もう1つ大きな柱として掲げられたのが、制度面の見直しです。特に薬価については踏み込み、▽費用構造などベンチャーの特性に応じた薬価上の評価▽重篤な疾患の治癒が期待できる薬剤に対する新たな薬価の上乗せ評価▽研究開発や製造のコスト増大に見合った評価――を検討すべきと指摘。規模の小さい製薬企業にとって大きな負担となる市販後調査(PMS)は、電子データの活用などによって負担軽減を図ることも提案しました。

 

民間投資を呼び込めるか

厚労省は、バイオベンチャー振興の旗振り役を担う専門組織を設置し、報告書に盛り込まれた支援策を実行に移していく方針です。政府も今年4月にベンチャー振興策を盛り込んだ「ベンチャー・チャレンジ2020」をまとめて本腰を入れており、ベンチャー振興の機運は高まっています。

 

バイオベンチャーは製品の市場投入までに莫大な資金と長い時間が必要で、リスクマネーの供給はまさに生命線。政府はこれまでもベンチャー支援策を充実させてはきましたが、成功確率が低くリスクが高いだけに、バイオ分野にベンチャーキャピタルや投資家が乏しいという問題は、なかなか解決には至っていません。

 

厚労省が懇談会を立ち上げてバイオベンチャーの振興策をまとめたのは今回が初めてで、規制や薬価制度の見直しなど、打ち出した支援策もかなり踏み込んだ印象があります。ただし、継続的にリスクマネーを呼び込めなければ、振興のカギとなるエコシステムは回っていきません。

 

厚労省が今回打ち出した支援策は、民間投資を呼び込み、自律的なエコシステムの循環につながるのでしょうか。注目したいと思います。

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