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ニュース解説

医師の偏在を助長?医療界が大揉めする「新専門医制度」

更新日

専門医の養成制度をめぐり、医療界が大きく揺れています。

 

専門医の質の向上を狙って2017年4月にスタート予定の「新専門医制度」に対し、日本医師会や病院団体などから「医師の偏在を助長する」と批判が噴出。制度の運営を担う「日本専門医機構」は予定通り制度の開始を目指していますが、日医などの要望を受けた厚生労働大臣が延期を示唆するなど、混迷は深まるばかりです。

 

 

バラバラだった専門医認定を統一

専門医とは、内科や外科、小児科など、特定の診療科や疾患領域に関して専門性の高い知識や技能を身につけた医師が、認定を受けて取得できる資格です。

 

専門医の認定は、内科なら日本内科学会、小児科なら日本小児科学会といったように、各学会が独自に行っています。そのため、認定基準や認定方法は学会によってバラバラ。特に、専門医の広告が認められた2002年以降、学会による専門医資格は乱立することになり、質の低下やばらつきが懸念されるようになりました。

 

そこで厚生労働省は11年、専門医制度の見直しに向けた検討を開始。13年には「学会から中立的な第三者機関」を設立し、そこで専門医の認定と研修プログラムの評価・認定を統一的に行うという、新専門医制度の大枠をまとめました。

 

新専門医制度のポイント

新専門医制度のポイントを見ていきます。

 

新制度では、専門医資格を希望する医師は、医学部卒業後2年間の臨床研修を終えた後、さらに3年以上の研修を受けることになります(専門医資格を目指して研修を受ける医師は「専攻医」と呼ばれます)。研修は、大学病院などの基幹病院を中心に、地域の病院や診療所がグループを組んで実施。大学病院と地域の病院・診療所を行き来しながら症例を積んでいく仕組みになっています。

 

乱立していた専門医資格も整理されます。新制度では、専門医資格を「基本領域専門医」と「サブスペシャリティ領域専門医」の2つに区分。医師はまず、「内科」や「外科」「小児科」「皮膚科」といった基本領域専門医の資格を取得し、その後、希望に応じて「循環器」「糖尿病」「がん」「心臓外科」など細分化されたサブスペシャリティ領域専門医の認定に進む2段階方式となります。

 

新専門医制度の基本設計

 

新制度の運営を担うのは、「中立的な第三者機関」として14年に設立された「日本専門医機構」。機構は、研修を行う病院が作った研修プログラムの評価・認定、専門医の認定を行います。

 

大学病院に医師集中?「地域医療に混乱」広がる不安

専門医の質を高め、良質な医療を提供する――。高尚な目的を掲げて走り出した新専門医制度ですが、医師会や病院団体からは批判が噴出し、制度の延期を求める声も大きくなっています。なぜなのでしょうか。

 

まずは下の図をご覧ください。

 

新専門医制度の仕組みと医師偏在への懸念

 

先にも触れたように、新専門医制度では大学病院などの「基幹病院」が、専門医機構が認定したプログラムに基づいて研修を行う計画です。専門医機構はプログラムの整備基準で、各専門領域で幅広い症例を数多く経験させるよう求めており、基幹病院は大学病院などの大規模病院が中心にならざるを得ず、特に地方では“基幹病院=大学病院”という構図になってしまうことは容易に想像がつきます。

 

こうした制度設計のため、若手医師が大学病院に集中し、地方の中小病院に若手医師が集まらなくなるとの不安が広がっています。加えて、専門医研修を行う施設には「指導医」を配置する必要があり、ベテラン医師までも大学病院や連携施設にとられてしまう可能性も指摘されています。

 

地方自治体からも批判

日本医師会と日本病院会など4つの病院団体は今月7日、「指導医を含む医師および研修医が都市部の大学病院等大規模な急性期医療機関に集中し、地域偏在がさらに拡大する懸念が強く、地域医療の現場に大きな混乱をもたらす」との声明を発表。17年度からの制度開始に“待った”をかけました。

 

こうした声は、地方自治体からも上がっています。5月には関西広域連合が「地域医療を支えている中小病院が基幹病院になるのは事実上困難で、連携施設も常時専攻医の派遣を受けられる担保がなく、地域医療を支える医師の確保に多大な影響が生じる」との意見書を国に提出。問題が解決するまで、制度を延期するよう求めました。

 

深まる混迷、厚労省が延期を示唆

混乱は続きます。

 

塩崎泰久厚生労働相は、日医と病院団体の要望を受けたその日のうちに「要望の趣旨を十分理解する」との談話を発表。「要望や意見を真摯に受け止め、なお一層の取り組みをされることを強く期待する」と、現計画にこだわる専門医機構をけん制しました。

 

それでも専門医機構は、予定通り17年4月から制度を開始する意向を崩しません。11日には主要な学会に対して「研修プログラムに基づく専門医育成の仕組みを実現させることも非常に重要」とのコメントを送付。塩崎厚労相は14日の記者会見で「談話の趣旨が全く踏まえられておらず、大変遺憾」と不快感をあらわにし、制度の導入延期も含めて議論する必要があるとの考えを示しました。

 

新専門医制度に対する批判は、医師偏在を助長しかねない仕組みだけでなく、意思決定プロセスの不透明性など専門医機構のガバナンスにも向かっています。感情的な対立に陥ってしまっている面もあり、混迷は深まるばかりです。

 

17年4月のスタートは不透明

新専門医制度をめぐっては、厚生労働省に専門委員会が設けられ制度の改善に向けた議論が進んでいます。従来はプロフェッショナルオートノミー(専門職の自立性)を尊重してきた厚労省ですが、混乱を収拾しようと介入に乗り出した格好です。

 

厚労省は専門委員会に、17年4月から新制度の運用を“試行的”に始めてはどうかと提案しています。しかし、議論はいまだにまとまっていません。予定通り17年4月に新制度をスタートできるかは不透明な状況です。

 

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