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ニュース解説

大塚のデジタルメディスン、世界初の承認は見送りに…アドヒアランス向上へ製薬各社が模索する「薬×ICT」

更新日

世界初となる“デジタルメディスン”の実用化に「待った」がかかりました。

 

大塚製薬は4月27日、米プロテウス・デジタル・ヘルスと開発したデジタルメディスンの米国承認が見送られたと発表しました。米FDA(食品医薬品局)は追加データの提出を求めているといい、両社は今後、FDAの要求に応えるべく協議を行うとしています。

 

製薬各社が、服薬アドヒアランス向上のために医薬品とICT(情報通信技術)の連携を模索する中、かつて例のないデジタルメディスンの行方に注目が集まります。

 

 

 

センサーとパッチで服薬状況把握

大塚が製品化を目指しているデジタルメディスンは、同社の抗精神病薬「エビリファイ」に、プロテウスが開発した極小センサーを内蔵した錠剤。両社は2012年にライセンス契約を結び、共同で開発を進めてきました。

 

デジタルメディスンに内蔵するセンサーはシリコン製で、大きさはわずか1ミリメートル四方。服用後、胃酸に触れると電波を発し、患者の体に貼り付けたパッチがそれをキャッチ。パッチのデータはスマートフォンやパソコンに送られ、医師などの医療従事者は患者がいつ薬を服用したか把握することができます。

 

患者の体に貼り付けたパッチは、服薬のデータだけでなく、活動量(歩数)や体の傾きといった情報も収集します。こうした情報から医療従事者は、患者が規則正しい生活を送っているかどうかも知ることができます。

 

「エビリファイ」が対象とする精神疾患では、睡眠障害が再発の前兆の一つとされています。医師が患者の日ごろの生活を知ることで、再発前に治療介入することも可能になります。

 

狙いはアドヒアランスの向上

大塚がデジタルメディスンの開発で狙うのは、服薬アドヒアランスの向上です。デジタルメディスンによって、医師は患者の服薬状況を正確に把握することができるようになり、薬の飲み忘れによる精神疾患の再発を避けることができると期待されています。

 

大塚によると、統合失調症などの慢性疾患患者では、およそ50%が医師の処方通りに薬を服用できていないと言われています。せっかく薬を処方しても、効果が十分に得られなかったり、薬剤費が無駄になったりしていました。米国では、服薬不良によって推定1000億~3000億ドルものコストが余分にかかっているとの研究もあります。

 

FDAは追加データを要求

大塚は昨年、米FDA(食品医薬品局)にデジタルメディスンを新薬として申請、昨年9月には申請が受理されたと発表していました。しかしFDAは、現時点での承認はいったん見送り、追加のデータを要求しました。

 

大塚によると、FDAはデジタルメディスンが実際に使われる条件下での追加データなどを求めているといいます。エビリファイは米国ですでに承認されており、プロテウスのセンサーとパッチも医療機器の認証を取得済。FDAが具体的にどのようなデータを求めているのかは明らかではありませんが、大塚の米国法人副社長の「FDAの決定に失望している」とのコメントには、大塚にとってもFDAの判断は想定外だったとの思いがにじんでいます。

 

ノバルティスが次世代吸入器を開発

医薬品とICT(情報通信技術)を組み合わせて服薬アドヒアランスの向上を図ろうという取り組みは、ここ数年で急速に進んでいます。

 

スイス・ノバルティスは今年1月、米国のIT企業クアルコムと提携し、慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療薬の服薬状況をほぼリアルタイムで取得できる新たな吸入器を開発すると発表しました。

 

ノバルティスのCOPD治療薬「オンブレス」「シーブリ」「ウルティブロ」に使われている専用吸入器「ブリーズヘラー」を改良し、吸入器の使用状況や使用時間といったデータを検出できるようにし、服薬アドヒアランスを管理できるようにします。ノバルティスはこの次世代吸入器を2019年に発売する予定です。

 

バイエルは技術開発に助成プログラム

バイエル薬品は今年、デジタルヘルス技術を支援するオープンイノベーションプログラム「Grants4Apps Tokyo」をスタート。その最初の課題に「服薬アドヒアランスを改善するための革新的なソリューション」を掲げました。テーマの募集は今月9日で締め切られ、選ばれたテーマには100万円の助成金が支給されます。

 

診療報酬改定では残薬問題がクローズアップ

2016年度の診療報酬・調剤報酬改定をめぐる議論では、薬の飲み残し、いわゆる残薬の問題が大きくクローズアップされました。日本薬剤師会の調査によると、残薬を活用するために処方日数や投与回数を見直した結果、医療費削減額が推計で年間約29億円に上りました。16年度の診療報酬・調剤報酬改定では、多剤投薬や重複投薬の防止に焦点が当たりましたが、医薬品自体の服薬アドヒアランスの悪さも、残薬の原因の1つと考えられます。

 

残薬イメージ

 

服薬アドヒアランスの向上を図ろうという製薬企業の取り組みはこれまで、「服用しやすい剤形を開発する」「服用する錠数を減らす」「投与間隔を長くする」といった製剤上の工夫が中心でした。

 

「いかに売るか」に加え「いかに飲んでもらうか」

こうした取り組みは従来、どちらかと言うと製品のライフサイクルマネジメントの一環に位置付けられてきました。しかし、医療費の効率化が大きな課題となり、残薬問題に注目が集まる中、製薬企業には「いかに売るか」に加え、「いかにきちんと服用してもらうか」という観点での取り組みが求められているのは間違いありません。

 

従来の剤形追加にとどまらない、ICT分野の技術革新を活用した取り組みは、服薬アドヒアランスの向上に大きく貢献すると期待されます。大塚のデジタルメディスンは、いったんは承認が見送られましたが、大塚とプロテウスは承認に向けてFDAと協議を続けていく方針です。

 

デジタルメディスンは承認に漕ぎ着けることができるのか。製薬各社がICTの取り込みを模索する中、その行方に注目が集まります。

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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