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苦節30年…JTの医薬事業に光 自社品が相次ぎ承認、黒字化にメド

参入から苦節30年。日本たばこ産業(JT)の医薬事業に光が差してきました。

 

2012年には導出先企業が抗HIV薬の承認を取得し、初の自社創製新薬が誕生。13年には世界初の作用機序を持つ抗がん剤トラメチニブが承認され、これら2製品のロイヤリティーが収益に貢献し始めました。

 

参入以来、ほぼ毎年赤字だった業績も16年に黒字転換する見通しです。

 

 

参入は1987年

JTが医薬事業に参入したのは1987年。たばこ一本の事業構造から脱却するため、事業の多角化を目指してのことでした。

 

1993年には、研究開発力を強化するために自社研究施設「医薬総合研究所」を大阪・高槻に設立。1998年には鳥居薬品を買収しました。翌年には鳥居薬品の研究開発機能をJTに集約し、研究開発はJT、販売は鳥居薬品が担当する分業体制を作り上げました。

 

一部品目で鳥居薬品が研究開発を担当しているものもありますが、分業体制は現在まで続いています。JTの研究領域は「糖・脂質代謝」「ウイルス」「免疫・炎症」に特化。海外ではPOC(プルーフ・オブ・コンセプト)の取得まで自社で行い、それ以降は販売も含めて他社に導出するのが基本戦略です。

 

相次いだ開発中止

JTの医薬事業は苦難の連続でした。開発後期段階で何度も開発中止の憂き目に遭い、自社新薬を生み出せない状況が長く続きました。

 

大型化を期待していた脂質異常症治療薬「JTT-705」は、スイス・ロシュに導出しましたが、臨床第3相試験で臨床的効果が見いだせなかったとして2011年に開発を中止。同じ年には、米メルクに導出した骨粗鬆症治療薬「JTT-305」の開発も中止しました。

 

ほぼ毎年の営業赤字

収益の柱となる自社新薬が生み出せない中、JTの医薬事業は参入以来ほぼ毎年、営業赤字を計上し続けてきました。

 

JT医薬事業の業績推移

 

売り上げこそ鳥居薬品の支えで増収基調を維持してきたものの、年間数百億円に及ぶ研究開発費が重しに。過去10年間を見ても、黒字となったのは導出先からの一時金収入やマイルストーン収入があった2008年度のみ。2009~2012年度には4年連続で100億円規模の赤字を計上し、JTが当初目指した「事業の多角化=収益源の分散」とは程遠い状況が続いていました。

 

それでも多額の研究開発投資を続けてこられたのは、主力のたばこ事業が稼ぎ出す豊富なキャッシュが背景にあったことは言うまでもありません。

 

念願の自社新薬がブロックバスターに

しかしここにきて、長年育ててきた種がようやく花開いてきました。

 

米ギリアド・サイエンシズに導出した抗HIV薬のインテグラーゼ阻害剤エルビテグラビルは、配合剤「スタリビルド」として2012年に米国で承認を取得。日本でも2013年にJTが承認を取得し、鳥居薬品を通じて販売されています。

 

JTにとって悲願の自社創製新薬となった「スタリビルド」は、発売から短期間で売上高10億ドルを超え、ブロックバスターに成長。ギリアドの決算によると、2015年の世界売上高は18億2500万ドル(約2208億円)に上りました。

 

世界初のMEK阻害剤も承認

また、英グラクソ・スミスクラインに導出し、後にスイス・ノバルティスに移管された抗がん剤「メキニスト」(トラメチニブ)も、2013年に米国で承認を取得。2015年には欧州で承認され、日本でも2016年3月に承認されました。

 

「メキニスト」はMEK阻害剤という世界初の作用機序を持つ抗がん剤。JTが京都府立大の酒井敏行教授との共同研究で見出したファースト・イン・クラスの薬剤です。MEKとは、がん細胞の増殖シグナル伝達経路に存在するリン酸化酵素。「メキニスト」は、このMEKを阻害することで増殖シグナル伝達経路を阻害し、がん細胞の増殖を抑えます。

 

ノバルティスの決算によると、「メキニスト」の2015年の世界売上高は、併用薬「タフィンラー」と合わせて4億5300万ドル(約548億円)。現在の適応は悪性黒色腫(メラノーマ)ですが、非小細胞肺がんなどへの適応拡大に向けた開発も行われており、大型化に期待がかかります。

 

黒字化メドも“次”が正念場

「スタリビルド」や「メキニスト」がもたらすロイヤリティー収入により、2015年は23億円の赤字だったJTの医薬事業は、2016年に70億円の黒字に転換する見通し。JT全体の業績に対して安定的な利益貢献が期待できる段階に入りました。

 

今後の課題は、これら2製品に続く自社新薬の開発です。

 

現在、JTのパイプラインにあるのは9品目。規模が同水準の国内製薬企業と比べても遜色はなく、むしろそのうちの8品目を自社品が占める点は大きな強み。ファースト・イン・クラスとなる可能性を秘めた新規作用機序の化合物が揃い、長年にわたる研究の成果は着実に出ています。

 

今年3月には、エルビテグラビルを含む新たな抗HIV配合剤を国内で申請。開発後期段階には、2型糖尿病治療薬のGPR40作動薬「JTT-851」や腎性貧血治療薬のHIF-PDH阻害薬「JTZ-951」、JAK阻害薬「JTE-052」の自社創製3品目が控えます。

 

JTの開発パイプライン

 

注目されるGPR40作動薬の動向

当面の注目は「JTT-851」。GPR40作動薬としてファースト・イン・クラスを争っていた武田薬品工業の「TAK-875」は、P3試験で肝機能障害を引き起こす可能性が判明し、2013年に開発を中止しました。

 

JTT-875には現在のところ、そうした情報はありませんが、海外導出先の選定には時間がかかっているようです。発売されればファースト・イン・クラスとなるだけに、今後の動向が注目されます。

 

自社創製新薬の発売によって収益基盤は固まりつつありますが、それは製薬企業としてのスタート地点に立ったに過ぎません。JTの医薬事業は、革新的新薬を生み出し続けるという新たなフェーズに入ったと言えます。

 

「一定の期間新薬を創出できなかったメーカーは、事業の転換も迫られるのではないか」(厚生労働省の医薬品産業強化総合戦略)と言われるように、新薬を継続的に生み出せない企業は新薬ビジネスからの撤退を迫られる厳しい時代。JTが製薬企業として生き残っていくためには、ここからが本当の正念場となります。

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