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欧米製薬、大規模再編が加速…「規模拡大」「選択と集中」戦略の違い鮮明に 日本企業の動きは?

更新日

欧米の製薬業界で再編が加速しています。

 

 米ファイザーが約19兆円でアイルランド・アラガンの買収に合意するなど、規模拡大を求めるM&Aが相次ぐ一方、スイス・ノバルティスと英グラクソ・スミスクラインが大規模な事業交換を行うなど、欧州では事業領域の絞り込みを狙った動きも出てきました。

 

主力品の特許切れと後発医薬品との競争激化、新薬候補の不足…。背景事情は共通しているものの、各社の戦略は「規模拡大」か「選択と集中」かで鮮明に分かれています。

 

 

口火切ったファイザー、再編ムード一気に

欧米製薬業界の大規模再編の口火を切ったのは“アメリカの巨人”ファイザーでした。

 

最終的には断念はしたものの、英アストラゼネカ(AZ)に仕掛けた1180億ドルに及ぶ巨額買収劇は、欧米製薬業界の再編ムードを一気に高めました。それ以降、欧米の製薬業界では日本円にして1兆円超の大型M&Aが相次いでいます。 

欧米製薬企業による最近の大型買収

 

中でも目立つのがファイザーの動きです。

 

AZの買収は断念しましたが、翌2015年2月には米後発医薬品大手のホスピーラを170億ドルで買収することで合意。同社買収が9月に完了すると、わずか2ヶ月後にはアイルランド・アラガンの買収合意に漕ぎ着けました。買収額は総額1600億ドル。製薬業界では過去最大のM&Aとなりました。

 

拡大路線進むファイザー

ファイザーはこれまでも大型のM&Aを繰り返して拡大路線を突き進んできました。2000年には米ワーナー・ランバード、02年には米ファルマシア、09年には米ワイスを次々と買収しました。

 

M&Aによって成長の停滞局面を切り抜ける手法は「ファイザーモデル」と呼ばれます。高脂血症治療薬「リピトール」の特許切れ以降、12年から4年連続で減収が続く同社は今回もM&Aによって状況の打開を図ります。

 

ファイザーはアラガン買収により、しわ取りに使われるA型ボツリヌス毒素製剤「ボトックス」などを獲得し、製品ラインアップを拡充します。売上高はスイス・ノバルティスを抜き、世界最大手の座を奪還する見通しです。

処方箋薬の世界売上高(2014年)

 

大型買収、税が後押し

ファイザーのアラガン買収をめぐっては、米国で「租税回避」との批判が高まっています。

 

ファイザーとアラガンの合併は、買収されるアラガンがファイザーを吸収する「逆さ合併」の形をとることで、運営拠点を米国に置いたままアイルランドに形式上の本社を移す計画です。OECD(経済協力開発機構)のまとめによると、米国の法人税率は39%なのに対し、アイルランドは12.5%。本社移転による節税効果は年間20億ドルとも言われています。

 

M&Aによる本社移転で課税回避を図る動きは「タックスインバージョン(課税逆転)」と呼ばれ、M&Aを後押しする要因の一つになっています。ファイザーがまず目をつけたAZも法人税率が20%と割安な英国の企業ですし、撤回となったものの米アッヴィによるアイルランド・シャイアーの買収もインバージョンが目的の一つに挙げられていました。 

 

米政府は規制強化へ

今年1月に米バクスアルタの買収で合意したシャイアーも近年、法人税率の低さを生かして買収を繰り返しています。ファイザーが買収するアラガンも、もともとはアイルランドのアクタビスが米アラガンを買収し、社名を存続したものでした。

 

米国政府はタックスインバージョンの規制強化に動いており、アッヴィがシャイアー買収を撤回したのもこれが理由。ファイザーのイアン・リードCEOは「現行法の下では(買収を)完了できないいかなる理由もない」と強行突破を図る構えを見せていますが、2016年下期を予定する買収完了までには紆余曲折も予想されます。

 

「選択と集中」に動く欧州勢

規模拡大を求める大型M&Aが活発化する一方、それとは一線を画す動きも出ています。得意分野に事業領域を絞り込み、経営資源を集中投下する「選択と集中」を目指した再編です。

 

「選択と集中」を狙った再編

ノバルティスとGSKが大規模事業交換

ファイザーとAZの買収劇が世間を賑わせていたのと同じころ、スイス・ノバルティスと英グラクソ・スミスクライン(GSK)が大規模な事業交換に合意しました。

 

ノバルティスがGSKのがん領域事業を最大160億ドルで買収する一方、インフルエンザを除くワクチン事業をGSKに最大71億ドルで売却。一般用医薬品(OTC)は両社による合弁事業に切り替え、出資の63.5%をGSKが握ることになりました。

 

「イノベーション力と世界的規模を持った主要事業に焦点を絞り込む」。ノバルティスのジョセフ・ヒメネスCEOは事業交換の意義をこう説きました。

 

ノバルティスは事業交換によって、すでに強みを持っていたがん領域をさらに強化。ワクチン事業を手放し、OTC事業への関与も弱めることで、がん領域を中心とする医療用医薬品に経営資源を集中させる考えです。逆にGSKは▽呼吸器▽HIV▽ワクチン▽OTC――の主力4部門に収益の7割を集約させます。

 

サノフィとBIも交渉

2015年12月には、仏サノフィと独ベーリンガーインゲルハイム(BI)も事業交換に向けた独占的交渉を開始したことを明らかにしました。サノフィはBIからOTC事業を取得する一方、動物薬事業をBIに譲渡するというもの。これにより、サノフィはOTC事業で世界トップクラスとなり、BIは動物薬事業で世界2位に躍り出る見通しです。

 

「勝てる領域で競争力のある地位を築くという目標に向け、迅速に行動している」(サノフィのオリヴィエ・ブランディクールCEO)

 

「世界的規模を確立しているか、もしくはその道筋が得られることが明確な中核分野に集中する」(BIのアンドレアス・バーナー取締役会長)

 

両社トップは交渉開始を受けてこうコメント。「選択と集中」の必要性を強調しました。 

 

こうした動きは欧州勢で目立ちます。ノバルティスはGSKとの事業交換とは別に、動物薬事業を米イーライリリーに売却。独バイエルは2014年に米メルクからOTC事業を142億ドルで買収しました。 

 

主力製品の特許切れ、後発医薬品との競合激化、新薬候補の不足…。欧米大手を再編に向かわせる動機は共通しているものの、ファイザーと欧州勢が進んでいる道は正反対。「規模拡大」か「選択と集中」か。戦略の違いが鮮明になってきました。

 

 日本企業、「規模拡大」はどこ吹く風

ひるがえって日本。

 

 国内製薬業界では、2005年にアステラス製薬と第一三共、大日本製薬などが次々と誕生。2007年には田辺三菱製薬、2008年には協和発酵キリンが発足しましたが、それ以降、大きな業界再編の動きはありません。海外企業に対する大型買収からも、最近は遠ざかっています。

国内製薬業界の再編_日本企業による主な大型買収

 

「医薬品の研究開発コストの増加やグローバルでの事業展開を考慮すると、日本の製薬メーカーもM&A等による事業規模の拡大も視野に入れるべきではないか」

 

 厚生労働省は昨年公表した「医薬品産業強化総合戦略」で業界再編に踏み込みました。

 

しかし業界側は「新薬開発に重要なのは開発パイプラインの数と質であり、事業規模拡大が全てではない」(日本製薬工業協会「産業ビジョン2025」)とどこ吹く風。製薬協の多田正世会長も「規模の拡大は経営者が決めることで、国が主導する必要はない」とつれません。

 

選択と集中、日本でも

一方で、「選択と集中」に向けた動きは、国内企業でも加速しています。

 

 武田薬品工業は今年4月にイスラエル・テバと日本で合弁会社を設立し、ARB「ブロプレス」などの長期収載品を新会社に移管する予定です。本体は新薬事業に集中する方針で、海外では呼吸器領域事業を英AZに売却しました。

 

アステラス製薬も海外の皮膚科領域事業をデンマークのレオファーマに売却。エーザイは消化器領域事業を味の素製薬との合弁会社に分離、医薬品製造販売子会社サンノーバや診断薬子会社エーディアなどの子会社の売却を進めています。 

 

しかし、国境を越えて大規模な再編を繰り広げる欧米大手と比べると、日本企業の存在感の乏しさは否めません。創薬シーズの獲得や新興国市場の開拓をめぐって国際競争が激しさを増す中、日本企業にさらなる打ち手はあり得るのでしょうか。

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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