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【2016薬価制度改革3】後発品薬価また引き下げ…価格帯集約は回避もくすぶる火種 長期品市場、縮小加速

更新日

2016年度薬価制度改革では、現行「先発医薬品の6割」となっている新規収載後発医薬品の薬価を「先発品の5割」に、収載希望が10品目超の内用薬はさらに「先発品の5割」から「先発品の4割」まで引き下げることが決まりました。

 

薬価引き下げによる収益性の低下は企業にとって大きな痛手。価格競争が激化する中、使用目標達成に向けた増産体制の整備も求められており、後発品各社は厳しい体力勝負を迫られることになりそうです。

 

一方、後発品への置き換え率が低い長期収載品の薬価を引き下げるルール(いわゆるZ2)は、政府の新たな使用目標に合わせてハードルを引き上げます。長期収載品市場の縮小が一段と加速化するのは間違いありません。

 

 

新目標達成へテコ入れ

まずは、政府が昨年6月に決めた新たな後発品の使用目標と足元の数量シェアを振り返っておきます。

 

政府は昨年6月に閣議決定した「骨太の方針2015」の中で、「2017年央に70%以上、2018年度から2020年度末までのなるべく早い時期に80%以上」という新たな後発品の使用目標を掲げました。

 

一方、厚労省の調査によると2015年9月時点の数量シェアは56.2%。第一のターゲットとなる「2017年央に70%以上」を達成するためには、2年弱の間で14ポイント引き上げなければなりません。2013年9月から2015年9月の2年間の伸び率は10ポイント程度なので、目標達成には後発品への切り替えをさらにスピードアップさせる必要があります。

後発品の数量シェアの推移と目標

 新目標の達成に向けて厚労省は、2016年度薬価制度改革で後発品の薬価を引き下げるとともに、置き換えの進まない長期収載品の薬価を引き下げるルール(Z2)の基準を見直します。

 

また、2016年度診療報酬改定でも使用促進策に対するテコ入れが行われる見通し。薬価と診療報酬の両面から後発品の使用を推し進めようというわけです。

 

安売り競争が招いた引き下げ

今回の薬価制度改革では、新規に薬価収載される後発品の薬価を、現行の「先発医薬品の6割」から「先発品の5割」に、収載希望が10品目を越える内用薬はさらに「先発品の5割」から「先発品の4割」に引き下げます。

 

バイオ後続品(バイオシミラー)の薬価は、これまで通り「先行品の7割(臨床試験の充実度により10%の加算)」に据え置くこととなりました。

新規後発品の薬価算定ルールの変遷

 

前回の2014年度薬価制度改革から2回連続の引き下げは、後発品業界にとって大きなダメージ。しかしそれは、後発品業界が価格競争に陥った結果でもあります。後発品各社が繰り広げる「安売り合戦」を背景に市場実勢価格が大幅に下落。「引き下げの余地あり」と判断されたのです。

 

下の表は、2013年9月と2015年9月の薬価調査をもとに、新規収載後発品の薬価と市場実勢価格との乖離率を比較したものです。

新規収載後発品の乖離率

 

2つの調査の間に行われた2014年度薬価制度改革では、新規収載後発品の薬価が引き下げられていました。それにもかかわらず、新規収載後発品の乖離率は拡大しています。

 

これでは「最初から5掛け(先発品の5割)でも利益が出る」(中央社会保険医療協議会診療側委員の松本純一・日本医師会常任理事)との指摘が出るのも無理はありません。

 

安売り、注射剤でも 

後発品業界は中医協の議論で、少なくとも注射薬や外用薬は現行の「先発品の6割」を維持するよう求めていました。理由は「内用薬に比べて明らかに乖離率は小さく、製造や開発のコストがかかる」(日本ジェネリック製薬協会の吉田逸郎会長)から。

 

ところが、いざふたを開けてみると、注射薬の乖離率は内用薬と同水準であることが明らかとなり、業界側の要望は退けられました。

 

特に注射薬については、後発品業界が安売りを否定したにもかかわらず、乖離率が倍増して内用薬並みになっていたことに、関係者の間には波紋が広がりました。

 

中医協の場では、製薬業界代表の加茂谷佳明専門委員が「大変驚いている。競争が加速した結果と考えているが、後発品の信頼性向上の妨げになりかねない」と発言。GE薬協の吉田会長は「厳粛に受け止めており、市場実態に基づかない要望をしたことについて深く反省している」と陳謝するコメントを発表せざるを得ませんでした。

 

「設備投資7000億以上」薬価引き下げで体力勝負に

政府が2020年度末までに数量シェアを80%に引き上げる目標を掲げたことで、後発品業界には、それに対応した供給体制の整備が求められています。

 

日本ジェネリック製薬協会(GE薬協)のまとめによると、会員企業の生産能力は2014年度実績で565億錠相当。使用目標の達成には、これを2017年度には840億錠相当に、2018~2020年度には1000億錠相当まで引き上げる必要があるとGE薬協は試算しています。

 

業界再編の引き金に?

後発品業界はこれまでも、後発品の使用促進に対応するため生産能力の増強に投資してきました。GE薬協会員会社の設備投資額は2009~2014年度の6年間で3216億円に上ります。使用割合が80%になる2020年度までには「さらに倍以上の7000億円以上の設備投資が必要」(GE薬協の吉田会長)と言います。

 

激しい価格競争にさらされながら、増産体制の整備に多額の資金をつぎ込むことになる後発品各社は今後、生き残りをかけた体力勝負に突入することになりそうです。

 

厚労省が昨年9月にまとめた医薬品産業強化総合戦略で「各メーカーは集約化・大型化も含めてその在り方を検討することが必要ではないか」と指摘した通り、業界再編につながっていく可能性もあります。

 

価格帯集約、18年度改革が焦点

一方、後発品業界が薬価引き下げ以上に警戒していた価格帯のさらなる集約は、ひとまず見送られることになりました。

 

後発品の新規収載時の薬価は先発品を基準に決められるため、同一成分・同一規格であれ同じ価格。しかし、その後の薬価改定では個々の品目ごとに市場実勢価格に基づいて薬価を決めるため、同じ成分・同じ規格であっても価格にバラツキが出てきます。

 

同一成分・同一規格なのに多くの価格が存在することは、医療現場から見ると分かりづらく、後発品の使用促進を妨げる要因の一つと指摘されてきました。

 

そこで前回の2014年度薬価制度改革では、それまで細かく分かれていた価格帯を、同一成分・同一規格の品目で最も高い価格(多くは先発品の価格)を基準に、「最高価格の50%以上」「最高価格の30%以上50%未満」「最高価格の30%未満」の3つに集約しました。

 

これにより、抗アレルギー薬セチリジン塩酸塩錠5mgの場合、2014年度薬価改定前に13あった価格帯は3つに集約されました。

後発品の価格帯の集約

 

根強い「1価格帯」求める声

価格帯の集約は後発品の使用促進につながる面もありますが、後発品企業にとってはマイナスの影響もあります。価格帯ごとに加重平均で薬価を統一するため、個々の品目ごとに市場実勢価格に基づいて薬価を決めるよりも、薬価が低くなる場合があるからです。

 

2016年度薬価制度改革でも、価格帯のさらなる集約は論点の一つに挙がりましたが、結局は見送られました。後発品業界としては一安心といったところですが、中医協では「1つの価格に集約する方向でいくべき」といった意見も根強く、2018年度薬価制度改革に向けて検討を続けていくことになりました。

 

厚労省の調査によると、全国の薬局の6割以上が「1つの価格帯が望ましい」と答えており、将来的には価格帯の統一は避けられそうにありません。価格帯のさらなる集約は次回の薬価制度改革が焦点となりそうです。

 

 

Z2、新目標に合わせハードル引き上げ

前回の薬価制度改革で導入されたZ2は、政府の後発品使用目標の見直しに合わせてハードルが引き上げられます。

 

Z2は、後発品の発売から5年以上たった長期収載品について、後発品への置き換え率に応じて薬価を引き下げるルール。2016年度薬価制度改革では置き換え率の基準を「30%未満」「30%以上50%未満」「50%以上70%未満」に引き上げる一方、薬価の引き下げ幅は置き換え率の低い方から「2%」「1.75%」「1.5%」に据え置きます。

Z2の見直し内容

 

前回の薬価改定では1118品目がZ2の対象となり、このうち3割にあたる361品目が最も高い2%の引き下げを受けました。Z2は対象品目も多く、しかも置き換え率が基準に達するまで繰り返し適用されるという、製薬企業にとっては過酷な制度です。

 

昨年11月には、武田薬品工業が長期収載品の販売を本体から切り離し、新薬開発に集中すると発表しました。薬価の締め付けと後発品の拡大により、長期収載品の市場は今後、急速に縮小していきます。オーソライズド・ジェネリック(AG)の戦略的活用も含め、事業の再編に向けた動きが加速するかもしれません。

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