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政策・制度

【2016薬価制度改革2】売れすぎたら下げる…特例再算定で広がる波紋 皆保険のひずみ、薬価にしわ寄せ

 

イノベーションの否定につながるような、『売れすぎたから下げる』というような見直しには反対だ――。

 

製薬業界の反対もむなしく、2016年度薬価制度改革で新たに導入されることになった特例拡大再算定。「国民皆保険の維持」という大義名分のもと、今年4月の薬価改定から、製薬企業の予想を超えて年間売り上げが1000億円以上となった医薬品の薬価が最大50%引き下げられることになりました。

 

公的医療保険財政が逼迫する中、制度的ひずみが革新的新薬の薬価に及んだ格好で、製薬業界は「極めて理不尽」と猛反発。イノベーションの促進を掲げる厚生労働省が、「窮余の策」とはいえそれを否定するような制度の導入を決めたことに、製薬業界では波紋が広がっています。

 

 

議論の発端は「ソバルディ」 大型薬狙い撃ち

特例拡大再算定導入に向けた議論の発端となったのは、C型肝炎治療薬「ソバルディ」(ギリアド・サイエンシズ)の薬価収載でした。著効率96.4%という高い有効性とともに、1錠約6万2000円、12週間の治療で約550万円(併用薬を含む)という高額な薬価が話題となった医薬品です。

 

「これはどれくらい売れたら市場拡大再算定の対象になるのか」
「使用患者が増えたときには価格もきちんと見直していかないと、とんでもない数字になることもあり得る」

 

ソバルディの薬価収載を審議した昨年5月13日の中央社会保険医療協議会(中医協)。ピーク時987億円という巨額の年間予想販売額に対し、委員からこうした意見が出ました。医療保険財政への影響を懸念し、想定より多くの人に使われた場合には、薬価を引き下げるべきと指摘したのです。

 

市場拡大再算定は、販売額が製薬企業の予想を上回った場合に薬価を引き下げる仕組み。適用には適応拡大など「使用実態の著しい変化」があったことが条件となります。このため、ソバルディはいくら売れようと市場拡大再算定の対象にはなりません。

 

ソバルディのような医薬品に市場拡大再算定を適用するにはどうしたらいいか――。医療技術の進歩によって今後も高額な薬剤が続々と登場することが見込まれる中、大型医薬品を“狙い撃ち”にする制度の検討が進んでいきました。

 

 

最大50%薬価引き下げ 対象は4製品

今回、導入される特例拡大再算定は、製薬企業の予想を超えて巨額な売り上げが生じた医薬品の薬価を引き下げるルールです。文字通り、従来からある市場拡大再算定に“特例”として設けられます。

キリアド・サイエンシズのソバルディ

ギリアド・サイエンシズのソバルディ。C型肝炎治療にブレークスルーをもたらしたが、最大で50%の薬価引き下げを受けることになった(同社プレスリリースより)

 

対象となるのは

(1) 年間販売額が1000億円超1500億円以下で、予想年間販売額の1.5倍以上
(2) 年間販売額が1500億円超で、予想年間販売額の1.3倍以上

の医薬品。(1)は最大25%、(2)は最大50%、薬価を引き下げます。

 

4月の薬価改定では、C型肝炎治療薬「ソバルディ」と同「ハーボニー」(いずれもギリアド・サイエンシズ)、抗血小板剤「プラビックス」(サノフィ)、抗がん剤「アバスチン」(中外製薬)の4製品が対象に決まりました。プラビックスは後発医薬品も同様に引き下げを受けます。

 

昨年5月の発売直後から急激に売り上げを伸ばしているソバルディは(2)、プラビックスとアバスチンは(1)の要件に該当しているとして特例拡大再算定の対象に。ハーボニーは、ソバルディを比較薬として薬価が決められたため類似品として引き下げを受けます。

 

一方、全生存期間の有意な延長という臨床上の有用性が認められたアバスチンはプラス5%の補正加算が適用され引き下げ幅が緩和されます。

  

販売額・拡大倍率のみで引き下げ

市場拡大再算定はそもそも、薬価を算定したときから前提条件が大きく変化し、それによって売り上げが予想以上に伸びた医薬品の薬価を事後的に調整する、というのが基本的な考え方です。

 

このため従来の市場拡大再算定は、適応拡大や用法・用量の変化など「使用実態の著しい変化」があったことが適用の大前提。その上で「年間売り上げ150億円超、年間予想販売額の2倍以上」という基準に該当した場合に最大15%薬価を引き下げます。

 

一方、今回導入される特例拡大再算定は、使用実態の変化の有無は問いません。薬価算定時から前提条件が変わっていなくても、「1000億円」「1500億円」という販売額と「1.5倍」「1.3倍」という拡大倍率に着目して薬価を引き下げるものです。

市場拡大再算定と特例拡大再

 

使用実態の変化問わず 業界は反発

こうした違いから、製薬業界からは検討開始当初から「新ルールは市場拡大再算定の基本的な考え方に合致しない」といった批判が出ていました。

 

一方で厚労省側には「予想100億円のものが200億円になるよりも、1000億円のものが1900億円になる方が財政影響は大きいのに、使用実態の変化がないからといって後者が対象にならないのは妥当なのか」という問題意識がありました。

 

特例拡大再算定の引き下げ幅は最大50%と従来の市場拡大再算定に比べて段違いに大きく、製薬企業に与えるダメージは深刻です。

 

5月のソバルディ発売とともに日本市場に本格参入したばかりのギリアド・サイエンシズが日本国内で自社展開している製品は、特例拡大再算定の対象となった2製品のみ。これらが仮に50%の薬価引き下げを受ければ、単純計算で同社の売り上げは半減してしまうことになります。

 

「皆保険維持」か「イノベーション評価」か

厚生労働省が今回、特例拡大再算定を導入する背景には、公的医療保険制度の厳しい財政事情があります。

 

医療技術の進歩により、今後もソバルディのような高額な画期的新薬が登場するのは間違いありません。予想を超えて売り上げを伸ばす大型の医薬品に対して、公的医療保険から際限なく支出を続けていては、国民皆保険を揺るがしかねないと判断しました。

 

一方、製薬業界からしてみれば、予想を超えて売れたということは、それだけ多くの医師や患者から評価されたということ。ソバルディの爆発的な売り上げ拡大の裏には、有効性の高い革新的新薬を待ち望んでいた患者の存在があります。革新性に対する市場の評価が、逆に薬価の引き下げにつながる今回の制度は「イノベーションの否定そのもの」(日本製薬工業協会)と映りました。

 

中医協の議論でも、こうした主張が真っ向から対立しました。

 

薬価引き下げで生まれる財源を診療報酬本体に回したい診療側と、医療費の負担を抑えたい支払い側の双方の委員は「国民皆保険の維持」を大義名分に特例拡大再算定の導入を受け入れるよう製薬業界に要求。製薬業界側は「イノベーションを阻害する」と強く反対しました。

 

日本医師会・松原謙二副会長
「国民皆保険の仕組みがあるからこそ、製薬企業は十分な利益が上げられる。逆に言えば、十分な利益が上がったらある程度は還元していただきたい。適正な利益をもって新しい薬を作ってほしい」

日本製薬団体連合会・野木森雅郁会長
「市場で評価される薬剤を懲罰的に引き下げの対象とすることは理にかなわず、経営の予見性の観点からも問題だ」

健康保険組合連合会・幸野庄司理事
「国民皆保険の維持のためには本当に必要な制度。気持ちは分かるが、皆保険維持のために飲み込んでほしい」

欧州製薬団体連合会・フィリップ・フォシェ副会長
「市場での成功を罰することになる。新たなイノベーションの障壁になる」

 松原氏
「イノベーションの評価には新薬創出加算というアクセルがある。それだけでは暴走してしまう」

(いずれも中医協薬価専門部会での発言)

 

議論の最終局面では、厚労省内部からも「企業活動に与える影響が大きい。イノベーションの阻害につながらない形で議論を」(医薬品産業の振興を担当する医政局経済課の大西友弘課長)と懸念が出たほど。

 

しかし、最終的に厚労省は「国民皆保険制度を維持するための特例的制度」と位置付けて反対を押し切りました。

 

本質的な議論は置き去りのまま

特例拡大再算定をめぐる議論では、国民皆保険制度に生じている制度的なひずみが改めて浮き彫りになりました。

 

公的医療保険財政が逼迫する中、日本の医療制度はもはや薬価の削減なしには成り立たなくなっていますが、製薬企業に国民皆保険制度維持の課題な負担を強いていることには、違和感を拭えません。

薬価イメージ

 

「薬剤費全体と個別医薬品の市場規模の在り方を抜本的に検討した上で、最大の当事者である製薬業界にとって納得性のある結論にして頂きたかった」

 

日薬連の野木森雅郁会長がコメントしているように、本来なら、医療費全体に占める薬剤費の額や比率はどのくらいが適切なのか、それに対して個々の医薬品の売り上げはどの程度まで許容されるのか、といった議論は欠かせなかったはず。しかし、こうした本質的な議論は置き去りにされてしまいました。

 

個々の医薬品の画期性や有用性に関係なく、売り上げと拡大倍率のみで機械的に薬価を引き下げる特例拡大再算定。製薬業界は導入決定後も「国民皆保険制度維持という視点の重要性は認識しているが、イノベーションの適切な評価に反しており容認できない」(製薬協)と強く反対しています。

 

医療費を抑制しながらイノベーションを促進していくことは可能か――。社会保障費の削減圧力が強まる中、ジレンマは深まるばかりです。2016年度薬価制度改革が終わっても、特例拡大再算定のあり方をめぐる議論は続くことになります。

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