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武田薬品 シャイアー買収で合意 「6.8兆円」で得るもの、失うもの

武田薬品工業が、アイルランドの製薬大手シャイアーを買収することで同社と合意しました。買収額は約6兆8000億円で、日本企業による海外企業の買収としては過去最高。武田は買収で重点領域の消化器や中枢神経系を強化するとともに、希少疾患の製品とパイプラインを獲得し、世界トップ10入りする見通しです。

 

一方、巨額買収で負債は膨らむ上、買収後のオペレーションにも懸念もあります。6.8兆円に見合う成果をどう確保していくのか、ウェバー社長の手腕が問われることになります。

 

世界8位に 日本初のメガファーマ誕生

「シャイアーのポートフォリオとパイプライン、経験豊富な従業員が加わることで、さらに強いタケダへの変革が加速する」

 

武田薬品のクリストフ・ウェバー社長は5月8日、買収合意を受けてこうコメント。「統合後の会社は、消化器系疾患領域、ニューロサイエンス(神経精神疾患)領域、オンコロジー(がん)領域、希少疾患領域および血症分画製剤におけるリーディングカンパニーとなる」と買収の意義を強調しました。

 

AnswersNewsがまとめた最新の製薬企業世界ランキングによると、武田薬品は売上高1.75兆円(18年3月期見込み)で19位、シャイアーは1.70兆円(17年12月期)で20位。単純合算すると3.45兆円で、アッヴィやギリアド・サイエンシズなどを抜いて世界8位に躍り出る見通し。日本から初めて世界トップ10に入るメガファーマが誕生することになります。

武田薬品はシャイアー買収で世界8位に

両社が合意した買収額はシャイアー株1株あたり49.01ポンド。現金30.33ドルと武田薬品の新株0.839株(またはADS=米国信託株式1.678株)の組み合わせで、総額は約460億ポンド(1ポンド=147円換算で6兆7620億円)に上ります。両社株主の承認を経て、買収は2019年上期(1~6月)に完了する予定です。

 

重点領域を強化 希少疾患薬を獲得…収益改善も期待

武田薬品がシャイアー買収で狙うのは、重点領域の強化と希少疾患薬の獲得です。

 

シャイアーの主力製品は、ADHD治療薬「ビバンセ」(17年売上高21億6110万ドル)、潰瘍性大腸炎治療薬「リアルダ」(同5億6940万ドル)など。パイプラインにも非アルコール性脂肪肝炎治療薬や米FDAからブレークスルーセラピーの指定を受けた進行性家族性肝内胆汁うっ滞症治療薬などが控えます。武田は今回の買収が、重点領域である消化器系疾患領域とニューロサイエンス領域の強化につながると見ています。

 

シャイアーはハンター病など希少疾患向けの製品やパイプラインを多く揃えている上、2016年には米バクスターから分社したバクスアルタを買収し、血友病治療薬の分野でも世界有数の企業となりました。シャイアーの血友病治療薬の売上高は29億5700万ドル(17年)に上ります。希少疾患や血友病の領域は直接的なシナジーが見込めるわけではありませんが、武田薬品は近年、複数の海外バイオベンチャーと希少疾患薬の研究開発で提携を結んでおり、この分野へのアプローチを強めていました。買収によって武田薬品は、現在の重点領域であるがん、消化器、神経精神の3領域に加え、希少疾患という第4の柱を手にすることになります。

武田薬品とシャイアーの比較ウェバー社長が買収の決めてとしてもう1つ挙げたのが、収益性の高さです。シャイアーの17年の売上高は1兆6980億円で、純利益は4784億円。純利益率は28.2%で、武田薬品の9.0%を大きく上回ります。シャイアーの収益力は世界の製薬業界でもトップクラスで、低収益にあえぐ武田薬品にとってはそこも魅力的でした。世界最大市場の米国での基盤強化にも期待します。

 

有利子負債は6兆円に膨らむ

一方、懸念されるのが財務の悪化です。

 

武田薬品は08年に米ミレニアム、11年にスイス・ナイコメッド、17年に米アリアドと大型買収を繰り返しており、1兆円の有利子負債を抱えています。今回の買収で武田薬品は新たに3兆円の借り入れを行う上、同様に買収を重ねてきたシャイアーの有利子負債2兆円も飲み込むことになります。

 

合わせて6兆円規模にまで膨らむ有利子負債にどう向き合うのか。シャイアーの営業キャッシュフローは17年で42億5670万ドルと稼ぐ力は高く、返済に問題はないとする声もありますが、負担は決して軽くはありません。

 

加えて武田薬品は1兆円を超える「のれん」を抱えており、今回の買収によってそれも大きく膨らむことになります。武田薬品は国際会計基準(IFRS)を採用しているため、のれんの償却によって利益が減ることはありませんが、想定通りの収益を上げられない場合は、巨額の減損損失を計上するリスクをはらみます。

武田薬品のバランスシート

希少疾患向けの治療薬は、収益性も高い反面、開発は難しいハイリスク・ハイリターンの分野。買収を次の柱となる新薬の創出につなげられるかは不透明です。

 

中外製薬が二重特性抗体の血友病A治療薬「ヘムライブラ」を開発するなど、ライバルは少ないとはいえ開発競争は激しくなっています。希少疾患に強いからといって、将来の成長が約束されるわけではありません。

 

どんなに画期的な新薬でも、特許が切れれば売り上げがガタ落ちするのは製薬業界の常。6.8兆円に見合った持続的な成長を手にすることができるのか。世界市場での生き残りをかけて大勝負に出た老舗は、大きな岐路を迎えています。

 

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