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高齢者の薬「やめる」「減らす」どう判断?―ポリファーマシー防止へ厚労省が指針

更新日

高齢者の医療をめぐる問題として最近注目されている「ポリファーマシー」。多剤服用による害を示す言葉ですが、これを防ごうと厚生労働省が医療従事者向けの指針をまとめました。

 

75歳以上の4割が5剤以上 6剤超えるとリスク増

厚生労働省の「社会医療診療行為別統計」によると、75歳以上の高齢者のうち同じ薬局で月に5種類以上の薬を受け取っている人は40%、7種類以上の人は25%に上ります。

同一の薬局で1ヵ月に調剤された薬剤種類数の100パーセント棒グラフ。【75歳以上】1~2種類:34.1パーセント。3~4種類:24.8パーセント。5~6種類:16.3パーセント。7種類以上:24.8パーセント。【65~74歳】1~2種類:43.5パーセント。3~4種類:28.6パーセント。5~6種類:14.4パーセント。7種類以上:13.6パーセント。【40~64歳】1~2種類:46.6パーセント。3~4種類:30.0パーセント。5~6種類:13.5パーセント。7種類以上:10.0パーセント。【15~39歳】1~2種類:45.4パーセント。3~4種類:32.6パーセント。5~6種類:14.6パーセント。7種類以上:7.4パーセント。【0~14歳】1~2種類:39.0パーセント。3~4種類:32.3パーセント。5~6種類:18.3パーセント。7種類以上:10.5パーセント。

高齢者は複数の疾患を併存していることが多く、服用する薬の種類も多くりがちです。一方、加齢に伴って体内での薬物動態も変化します。高齢になると薬の血中濃度が上がりやすくなり、作用・副作用が増強することも少なくありません。薬の種類が増えると有害事象も増える傾向にあり、特に6種類以上になるとリスクが多く増加するというデータもあります。

 

ポリファーマシーは、新たに症状が出るたびに医療機関を受診することで服用薬が積み重なっていくのが典型的なパターン。有害事象に薬で対処することを繰り返す「処方のカスケード」という悪循環に陥ってしまうケースもみられます。

 

高齢者に注意が必要な薬とは?

こうした高齢者特有の事情に着目した対策を検討してきた厚労省「高齢者医薬品適正使用検討会」のワーキンググループは2月21日、高齢者に医薬品を適正に使うための指針を大筋でまとめました。厚労省がこうした指針をつくるのは初めてです。

 

ポリファーマシーを改善するため系統立った減薬の手順は確立されていません。厚労省がワーキンググループに示した指針案では、有害事象やアドヒアランスなどポリファーマシー関連の問題点を確認した上で、▽推奨される使用法の範囲内か▽効果はあるか▽減量・中止は可能か▽代替薬はあるか――といった観点から個々の薬の中止・減量・変更・継続を判断することを推奨しています。

 

一方で指針案は「ただの数合わせで処方薬を減らすことを求めるべきではない」とも指摘。機械的に薬を減らすとかえって病状を悪化させるとの報告もあり、慎重な判断と経過観察も求めています。服用回数の減少や配合剤による服用錠数の減少は、服薬アドヒアランスの改善には有効としつつも、有害事象回避を目的とする場合は、それぞれの薬剤の適応を再考することを進めています。

 

「老年症候群」に注意

指針案ではさらに、高齢者に注意が必要な薬も示されました。高齢者の場合、有害事象がふらつき・転倒や食欲低下といった高齢者に頻度の高い症候として現れることも多く、見落とされがちです。指針案ではこうした「老年症候群」に注意を払い、薬剤との関連が疑われる場合には中止や減量を考慮するよう求めています。

薬剤起因性老年症候群と主な原因薬剤の表。【症候】ふらつき・転倒:<薬剤>降圧薬(特に中枢性降圧薬・α遮断薬・β遮断薬)、睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬、てんかん治療薬、抗精神病薬(フェノチアジン系)、パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)、抗ヒスタミン薬(H2受容体拮抗薬含む)、メマンチン。【症候】記憶障害:<薬剤>降圧薬(特に中枢性降圧薬・α遮断薬・β遮断薬)、睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)、パーキンソン病治療薬、抗ヒスタミン薬(H2受容体拮抗薬含む)。【症候】せん妄:<薬剤>パーキンソン病治療薬、睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬(三環系)、抗ヒスタミン薬(H2受容体拮抗薬含む)、降圧薬(中枢性降圧薬·β遮断薬)、ジギタリス、抗不整脈薬(リドカイン・メキシレチン)、気管支拡張薬(テオフィリン、ネオフィリン)、副腎皮質ステロイド。【症候】抑うつ:<薬剤>中枢性降圧薬、β遮断薬、抗ヒスタミン薬(H2受容体拮抗薬含む)、抗精神病薬、抗甲状腺薬、副腎皮質ステロイド。【症候】食欲低下:<薬剤>非ステロイド性抗炎症薬、アスピリン、緩下剤、抗不安薬、抗精神病薬、パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬、コリンエステラーゼ阻害薬、ビスホスホネート、ビグアナイド。【症候】便秘:<薬剤>睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン)、抗うつ薬(三環系)、過活動膀胱治療薬(ムスカリン受容体拮抗薬)、腸管鎮痙剤(アトロピン・ブチルスコポラミン)、抗ヒスタミン薬(H2受容体拮抗薬含む)、αグルコシダーゼ阻害薬、抗精神病薬(フェノチアジン系) 、パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)。【症候】排尿障害・尿失禁:<薬剤>抗うつ薬(三環系)、過活動膀胱治療薬(ムスカリン受容体拮抗薬)、腸管鎮痙薬(アトロピン・ブチルスコポラミン)、抗ヒスタミン薬(H2受容体拮抗薬含む)、睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン)、抗精神病薬(フェノチアジン系) 、トリへキシフェニジル、α遮断薬、利尿薬。

このほか、▽睡眠薬・抗不安薬▽抗うつ薬▽高血圧症治療薬▽糖尿病治療薬▽脂質異常症治療薬▽抗凝固薬▽消化性潰瘍治療薬▽消炎鎮痛薬――など、高齢者によく使われる薬を処方する場合の基本的な注意点もまとめています。

 

ポリファーマシー解消 カギは多職種連携と患者の理解

指針案では、ポリファーマシー解消のためには専門医とかかりつけ医、薬剤師、看護師などによる多職種連携が重要だと繰り返し説いています。医師と歯科医師、薬剤師には薬物治療で中心的な役割を果たすことを求め、看護師には服薬状況や有害事象が疑われる症状といった情報を収集し、共有する役割を期待。入院や在宅医療の開始、介護施設入所といったタイミングで介入し、処方状況を全体的に把握したり、薬局を一元化したりすることで、ポリファーマシーは解消に向かうことが期待されるとしています。

 

安易に新薬処方すべきでない

さらに、専門医に対しても、高齢者が複数持つ疾患の治療優先順位に配慮したり、リスク・ベネフィットバランスを検討したりすることを求めています。「専門医もほかの領域に関しては非専門医」とし、ほかの専門医やかかりつけ医などとの連携にも理解が必要だと指摘。高齢者は新薬の治験の対象から除外されることも多く、「新薬を安易に処方することのないようにすべき」とも強調しています。

 

もう1つ、ポリファーマシーの解消に重要なのが、国民の理解です。現状では薬を欲しがる患者も少なくなく、指針案では減量や中止によって病状が改善することがあることなどを理解してもらう必要性に言及しています。

 

厚労省はパブリックコメントを経て4月以降に正式に指針を決定し、医療現場に周知する方針です。多剤処方の解消をめぐっては、診療報酬での評価も行われていますが、患者の意向もあり実際に薬を減らすのは簡単ではありません。医療現場と国民の双方に指針の内容を浸透させ、取り組みを後押ししていく施策も必要でしょう。

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