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ニュース解説

深刻化する薬剤耐性菌問題…新規抗菌薬の開発には何が必要なのか

今週(11月13~19日)はWHO(世界保健機関)が定める「世界抗菌薬啓発週間」。薬剤耐性菌の広がりが世界的に深刻な問題となる一方、新たな抗菌薬の開発は低調です。社会的なニーズは高い反面、収益性は低く、製薬企業としてもなかなか取り組みづらい抗菌薬の研究開発。後押しするためには何が必要なのでしょうか。

 

日本で承認された新規抗菌薬 10年以降はわずか3つ

「レボフロキサシンにクラリスロマイシン、セファゾリン、メロペネム…。日本の製薬企業には世界標準薬をたくさんつくりだしてきた歴史がある。しかし、そうした企業ですら抗菌薬の開発を続けにくい状況にある」。日本感染症学会の舘田一博理事長(東邦大医学部教授)は、抗菌薬開発をめぐる現状をこう指摘します。

 

日本製薬工業協会(製薬協)のまとめによると、国内で承認された新規抗菌薬の数(抗真菌薬、結核薬は除く)は、1985~89年は17、90~94年には15あったものの、95~99年には7まで激減。2010~16年はわずか3つにとどまりました。

日本で承認された新規抗菌薬の数

 薬剤耐性菌との戦いには、新たな抗菌薬の開発が欠かせません。しかし数字は、そうしたニーズに反して多くの製薬企業が抗菌薬開発から撤退してしまっている状況を如実に物語ります。

 

「耐性菌対策の一丁目一番地は新薬創出」だが…

製薬協は11月9日、世界抗菌薬啓発週間を前に、薬剤耐性に関するフォーラムを開催。ここで登壇した製薬協国際委員会幹事の山口栄一氏は「製薬企業が薬剤耐性対策にどう貢献できるかというと、やはり耐性菌に対する新薬創出が一丁目一番地だ」と強調する一方、市場性や開発コストなどの面から製薬企業が新規抗菌薬の開発に取り組みづらい現状を訴えました。

 

抗菌薬の収益性は低く、米ボストンコンサルティンググループの報告書によると、14~16年に発売された医薬品の予想収益は、抗がん剤が82億ドル、呼吸器疾患薬が50億ドル、皮膚疾患薬が35億ドルに上る一方、抗菌薬はマイナス1億ドルと赤字。抗菌薬は投与期間が一般的には5~7日と慢性疾患の治療薬に比べて短く、耐性菌を生まないよう使用にも制約がかけられるため、研究開発にかかった費用を売り上げから回収するのは難しいといいます。

2014~16年に発売された新薬の収益見通し

 また、日本では耐性菌による感染症自体が少なく、臨床試験を行うのも簡単ではありません。「臨床試験の費用は高騰しており、耐性菌に対する抗菌薬の臨床試験費用は抗がん剤よりも高くなっている」(山口氏)。

 

加えて、ペニシリン系やセフェム系、カルバペネム系などβラクタム構造を持つ抗菌薬は、ごく微量でも過敏症(アレルギー)を引き起こすため、ほかの医薬品とは製造設備を分けなければなりません。これも抗菌薬の収益を圧迫する要因の1つです。

 

「ビジネスの原理で動かないところをどうするか」

市場の力だけに任せていては、緊急性の高い抗菌薬の開発は間に合わない――。WHOは今年2月、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)など、新たな抗菌薬開発の緊急性が高い薬剤耐性菌12種類のリストを公表。WHOの保健システム・イノベーション分野の事務局長補を務めるマリー・ポール・キニー氏は、公的機関と民間企業が連携して抗菌薬の研究開発に取り組む必要性を強調しました。

WHOによる新規抗菌薬が緊急に必要な耐性菌のリスト 緊急性「重大」カルバペネム耐性アシネトバクター・バウマニ、カルバペネム耐性緑膿菌、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌。緊急度「高」バンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム、メチリシン耐性・バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌、クラリスロマイシン耐性ヘリコバクター・ピロリ、フルオロキノロン耐性カンビロバクター、フルオロキノロン耐性サルモネラ菌、セファロスポリン耐性・フルオロキノロン耐性淋病。国内では、日本化学療法学会や日本感染症学会などが、新規抗菌薬の研究開発促進策を検討する「創薬促進検討委員会」を発足。同委員会の委員長を努める舘田氏は「ビジネスの原理だけでは動かないところを、どうしたら動かしていけるのか、という機運が高まってきている」と話します。

 

製薬協も今年4月、厚生労働省に対して、薬剤耐性対策のための新薬開発の促進策を提言。新規抗菌薬を国が買い取って備蓄する制度の導入や、産官学の連携による基金と研究開発コンソーシアムの設立、開発に対する報奨制度の創設などを提案しています。

 

製薬協の山口氏によると、欧米では抗菌薬開発のために官民パートナーシップが立ち上がっており、臨床試験の費用も含めて研究開発に対する助成が行われています。一方、日本ではAMED(日本医療研究開発機構)による助成がありますが、研究と臨床第1相(P1)試験までにとどまり、費用のかかるP2試験以降に資金を提供するシステムはありません。

 

開発費を抑え、早期に承認までこぎつけられるよう、必要最小限の有効性・安全性データで審査を行う世界共通のガイドラインも必要だと製薬協は訴えています。

製薬協が提案する薬剤耐性対策のための研究開発促進策 研究開発促進-官民パートナーシップによる基金とコンソーシアムの設立、AMEDを中心に産官学で構成。新規抗菌薬やワクチン、迅速診断薬の開発を支援。薬事承認の迅速化-世界共通の臨床評価ガイドラインの策定。再三予見性の確保-承認を取得した新規抗菌薬を国が買い取り・備蓄する制度。製造販売承認取得報償制度。薬剤プロファイルに基づく薬価の事前審査制度。

 英国の研究チームによると、13年時点で薬剤耐性による死者は世界で推定70万人以上。このまま対策が取られない場合、50年には1000万人を超え、13年のがんによる死者数(820万人)を超えると予測されています。

 

「耐性菌との戦いは、学会だけではできないし、行政だけでもできない。企業や一般市民を巻き込んだ活動として広げていかなければならない」と舘田氏は話します。耐性菌対策には、産官学連携による新薬開発の取り組み、そして感染予防と適正使用への国民の協力が欠かせません。

 

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