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アトピー性皮膚炎に抗体医薬 乾癬治療薬から学ぶべきこと―価格の高さをどう乗り越えるか|DRG海外レポート

米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのはアトピー性皮膚炎に対する生物学的製剤。価格の高さがネックとなりますが、それをどうクリアするか、同じ皮膚科領域で先行する乾癬向け生物学的製剤から学ぶべきことは多そうです。

 

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

 

乾癬ではバイオ製剤が市場シェアの8割に

生物学的製剤は、リウマチや皮膚科領域、消化器領域で多くの自己免疫疾患の治療に変革をもたらしてきた。皮膚科領域では、乾癬、アトピー性皮膚炎、そして強皮症などで有効な治療法が求められている中、製薬企業は収益の大きい乾癬に最も力を入れている。

 

過去10年、乾癬では多くの生物学的製剤が承認された。局所製剤や従来の全身性の治療に比べ、肌をクリアにしたり、生活の質を改善したりといった点でより高い効果を上げている。2015年、米国とEU5カ国(フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国)の乾癬治療薬市場では、その8割を生物学的製剤が占めた

 

数十億ドル規模に育った乾癬に対する生物学的製剤の市場は、トップのTNFα阻害薬をはじめ、アムジェン/ファイザーの「エンブレル」、アッヴィの「ヒュミラ」、そしてヤンセンのIL-12/23阻害薬「ステラーラ」が独占している。これらの薬剤は、乾癬向け生物学的製剤の第一波(2004~2009年承認)を代表するものだ。

 

価格の高さが市場導入のネックに

ところが、生物学的製剤の使用にあたっては、その高額な治療費がハードルとなる。生物学的製剤は、比較的低コストな局所製剤や従来の全身性製剤が禁忌の患者、あるいはこれらで効果不十分な患者が対象となる。

 

米国で売上高トップ3の乾癬向け生物学的製剤を1年間投与するのにかかる費用は、2014年時点でステラーラが5万3339ドル、エンブレルが4万6395ドル、ヒュミラが3万9041ドルだった。

 

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乾癬の生物学的製剤は急速に普及し、IL-17阻害薬が新たに参入したことで、医療費の負担は増大した。コストに制約のあるEU5カ国や、高額な薬剤に敏感になっている米国では、最適な価格設定と償還、そしてフォーミュラリーで有利なポジションを得るのが難しくなっている

 

アトピーでも生物学的製剤が普及へ

一方、アトピー性皮膚炎は低コストで一般化された市場だ。治療の柱は、ステロイド外用薬と局所カルシニューリン阻害薬。局所治療でコントロールできない患者には、シクロスポリンやメトトレキサート、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチルなどの全身性免疫調整薬を使用することができる。米国では、アトピー性皮膚炎に対する全身性免疫調整薬はすべて適応外だが、欧州ではシクロスポリンが承認されている。

 

治療の中心となる薬剤は安価なため、支払者はこの市場で処方を規制する動機を持たなかった。しかし、この穏やかな状況にも変化の兆しが見られている。価格の高い生物学的製剤がアトピー性皮膚炎市場に進出しようとしているからだ。

 

アトピー性皮膚炎に対する初めての生物学的製剤として、サノフィ/リジェネロンの抗IL-4/13抗体「Dupixent」がすでに米国で発売されており、18年には欧州でも承認される予定だ。さらに今後数年で、アストラゼネカ/レオファーマの抗IL-13抗体tralokinumab、ロシュの同lebrikizumab、そして中外製薬/ガルデルマの抗IL-31抗体nemolizumabの承認が予想される。アトピー性皮膚炎でも生物学的製剤が普及する可能性がある。

 

アトピー向けバイオ薬の費用対効果は?

アトピー性皮膚炎に対する生物学的製剤の市場アクセスを考える上で、乾癬向け生物学的製剤から学ぶことは多い

 

米Institute for Clinical and Economic Review によると、米国で売り上げ上位の乾癬向け生物学的製剤の費用対効果は高い。1QALY(質調整生存年)を追加で獲得するのにかかるコストは、ステラーラが12万9904ドル/QALY、ヒュミラが10万8040ドル/QALY、エンブレルが11万7769ドル/QALY。これらはすべて、支払者が許容する閾値15万ドル/QALYを下回っている。

 

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Dupixentの費用対効果は「よい」

Dupixentについては、1年間の推定治療費3万ドルを用いたInstitute for Clinical and Economic Reviewのガイダンス案で、中等度から重症のアトピー性皮膚炎で費用対効果が高いことが示されている。1QALY追加するのにかかるコストは9万7600ドルで閾値を下回る。Dupixentの実際の価格は年間3万7000ドルで、Institute for Clinical and Economic Reviewが推定した3万ドルに近い。

 

Dupixentは、乾癬向けの最新の生物学的製剤と同じように高い価格を設定することもできたはずだ。しかしサノフィ/リジェネロンはそうしなかった。責任ある価格設定をしたことを、市場アナリストたちは歓迎している。

 

薬剤給付管理会社のExpress ScriptsはDupixentをフォーミュラリーに加えた。リーズナブルな価格設定で患者へのアクセスを確保したサノフィ/リジェネロンの対応を賞賛している。支払者はDupixentの使用にポジティブで、新しい乾癬向け生物学的製剤で求められているような徹底的なステップ治療や事前承認など、革新的新薬へのアクセスを制限してしまうような要件は設定されないかもしれない。

 

プラセボ対照試験では不十分

EU5カ国では、たとえ承認を取得できたとしても、それは市場参入を達成するための長いプロセスの第一歩にすぎない。医療技術評価(HTA)と償還交渉で課題に直面することになる。

 

新規の乾癬治療薬では顕著な効果を証明することが必須となっており、適切な対照薬を用いた臨床試験デザインの重要性が高まっている。対照薬には、現在標準治療となっているヒュミラやエンブレル、ステラーラが挙げられ、プラセボ対照試験はこの市場へのアクセスを確保する上ではもはや不十分だ

 

また、EU5カ国、特に英国では、費用対効果の説明が不可欠だ。たとえば、中等症の乾癬にのみ有効なセルジーンの経口PDE4阻害薬「オテズラ」は、15年1月にEUで承認されたが、費用対効果が悪いとして英国立医療技術評価機構(NICE)は当初、国民保健サービス(NHS)での償還を拒否した。価格を引き下げたうえで、患者アクセス保障(PAS)を設定し、オテズラは16年11月、ようやくNICEから使用を推奨する勧告を受けた。

 

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コストの意識の高い欧州市場では、Dupixentの製造販売業者は、乾癬向け生物学的製剤が市場導入に成功した戦略を取り込むことを検討するかもしれない。

 

Dupixentは十分な治療を受けていない中等度から重度のアトピー性皮膚炎患者ですでにその効果が証明されている。既存治療より高い症状の改善効果を示し、アンメットニーズを満たすことで、HTAで前向きな評価を得るための道は開けた

 

臨床試験で適切な実薬の対照群を設定することは、新たな乾癬向け生物学的製剤では標準的なアプローチとなっており、HTAで推奨されるための重要な要素となっている。アトピー性皮膚炎では、まだそこまでは至っていないものの、今後アトピー性皮膚炎に対する生物学的製剤を開発する企業は、適切な対照薬を選定し、それを競合との差別化に利用することを考えなければならない

 

中等症から重度の患者で高い費用対効果を証明することが重要

ドイツでは、ノバルティスの乾癬向け生物学的製剤「コセンティクス」が第一選択薬として既存の生物学的製剤を上回るベネフィットが認められなかったものの、従来の全身性治療で効果不十分な中等度から重度の乾癬患者のうち、過去に生物学的製剤による治療を受けた患者で追加的なベネフィットが認められた。

 

Dupixentも、十分に治療できていない患者集団、すなわち中等度から重度の難治性アトピー性皮膚炎に焦点を当て、こうした患者で費用対効果が高いことを証明することが実りある戦略といえる。

 

すでに英国では、医薬品早期アクセス制度(EAMS)が重度のアトピー性皮膚炎の深刻さを認識し、未承認ながらDupixentの使用を認めている。

 

価格の高い生物学的製剤にとって、市場へのアクセスをいかに確保していくかは大きな課題だ。戦略的に対処しなければ、患者数の少ない、より後の治療での使用にとどまることになるだろう。

 

市場参入を考えるにあたっては、費用対効果を証明することはもちろん、治療が不十分な患者集団に焦点をあてる、標準治療を改善する、責任ある価格設定を行うなど、その手段に注意を払うことが必要だ。こうした戦略は、新薬に競争優位性をもたらし、欧州では有利な償還交渉に、米国ではフォーミュラリーでの有利な位置付けにつながる。

 

(原文公開日:2017年6月8日)

 

【AnswersNews編集長の目】

アトピー性皮膚炎に対する生物学的製剤は、日本でも近くサノフィの「デュピクセント」が承認される見通し。中外製薬が創製し、国内はマルホ、海外はガルデルマに導出したネモリズマブはP3試験が進行中です。

 

一足先に生物学的製剤が登場した乾癬の治療はここ数年で大きく変化しており、アトピー皮膚炎の治療も抗体医薬の参入で大きな転換点を迎えることになりそうです。

 

価格の高さは日本でも議論になりそうです。厚生労働省は、デュピクセントに「最適使用推進ガイドライン」を策定する方針。患者の選択基準や投与できる医師・医療機関の要件などを定め、投与患者を絞り込む考えです。

 

この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。Decision Resources Groupは、向こう10年のアトピー性皮膚炎治療薬市場予測レポート(Disease Landscape and Forecast – Atopic Dermatitis)や、米国・欧州における市場アクセス・償還動向分析レポート(Access & Reimbursement – Atopic Dermatitis)を発行しています。レポートに関するお問い合わせはこちら

 

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