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“第一三共に買収提案”報道で注目―「外資傘下」の道を選んだ中外製薬の15年

8月31日、日経ビジネスがオンライン版に「特報」として掲載した「英アストラゼネカ、第一三共に買収提案」の記事が大きな波紋を呼びました。第一三共はこの日「そうした事実は一切ない」と報道を完全否定するコメントを発表しましたが、日本の製薬大手が外資に買収される可能性を、リアルなものとして感じた人も少なくなかったのではないでしょうか。

 

一方、今回の報道を機ににわかにクローズアップされたのが、2002年に自ら外資の傘下に入る道を選んだ中外製薬。ロシュの子会社になって以降、業績は右肩上がりで、中外独自の研究開発からはブロックバスターも生まれました。今年10月でロシュグループ入りから丸15年を迎える中外。業界再編の動きが国境を超えて加速する中、その歩みが改めて注目されています。

 

売上高 15年で2.1倍 ロシュ品販売で飛躍的成長

日経ビジネスの記事によると、英アストラゼネカが第一三共に買収を打診したのは昨年。第一三共はこれを拒否し、具体的な交渉には至らなかったとしています。報道を受け、第一三共の株価は急上昇。東証は「経営統合に関する報道の真偽を確認するため」として同株を一時、売買停止にするなど混乱しました。第一三共は報道のあった日の夜「そうした事実は一切ない」とのコメントを発表しました。

 

真偽はさておき、報道は衝撃を持って受け止められました。外資による日本企業買収にはネガティブなイメージもつきまといますが、必ずしもそうとは言えません。中外製薬はスイス・ロシュの傘下で飛躍的な成長を遂げました。

 

中外がロシュの傘下に入ったのは2002年10月。前年の12月に締結した戦略的アライアンス契約に基づき、ロシュが中外の株式の50.1%を取得(現在は59.9%を保有)し、連結子会社となりました。以来15年間、中外はロシュ子会社でありながら上場を維持し、自主経営を続けながら、ロシュとの関係を深めてきました。

 

業績の推移を見てみると、アライアンスの効果は明白です。ロシュグループに入った02年当時2374億円だった売上高は、16年に4918億円と2.1倍に拡大。17年は売上高が5205億円まで伸びる予想で、念願だった「製薬大手」(売上高5000億円以上)の仲間入りを果たす見通しです。

 

営業利益は2.5倍 収益力も向上

収益力も向上しました。営業利益は303億円から769億円と2.5倍に増え、営業利益率は12.8%から15.6%に上昇。研究開発費を増やしながらも、売上高に対する比率は下がっています。ロシュが開発する新薬を次々と国内市場に投入して業績を伸ばす中外は、高収益企業の代表格であるアステラス製薬や塩野義製薬と並んで、“業界の優等生”と評されます。

中外1

中外がここまで飛躍的な成長を遂げたのは、ロシュ製品を国内で独占的に販売してきたからにほかなりません。

 

現在、中外が国内で販売する年間売上高100億円超の10製品のうち、抗がん剤「アバスチン」や同「ハーセプチン」など7製品をロシュからの導入品が占めます。ロシュの傘下に入って以降、抗体医薬の抗がん剤を中心に製品ラインナップは広がり、08年以降、国内のがん領域で売上高首位をキープ。抗体医薬でも国内トップの売上高を誇ります。ロシュグループの一員となったことで、中外は「がん」と「バイオ」で強固な地位を築き上げました。

 

中外製薬の主力製品の売上高。17年見込み。アバスチン:927億円。ハーセプチン:351億円。パージェタ:129億円。リツキサン:340億円。アレセンサ:159億円。ゼローダ:137億円。タルセバ:113億円。アクテムラ:323億円。エディロール:295億円。ミルセラ:250億円。

 

急速に高まった中外独自の創薬力・技術力

ただ、中外が本当に評価されるべきなのは、創薬力と抗体関連の技術力を急速に高めてきた点にあります。ロシュの傘下に入ったことで、安定的な収益基盤を土台として、独自性の高い創薬や技術開発に経営資源を集中的に投入できる体制となりました。

 

取り組みがまず実を結んだのが、国産初の抗体医薬として05年に発売された抗IL-6抗体「アクテムラ」。14年9月に発売したALK阻害薬「アレセンサ」は、先行する米ファイザーの「ザーコリ」との直接比較試験で無増悪生存期間を大幅に延長し、病勢進行または死亡リスクを半減させ、世界を驚かせました。

 

新たな抗体技術の開発にも力を入れています。10年には抗原に繰り返し結合でき、薬効を持続させる抗体工学技術「リサイクリング抗体」を発表。この技術を活用し、視神経脊髄症治療薬の開発をロシュとともにグローバルで進めています。抗体の2つの抗原結合部位がそれぞれ異なる抗原に結合できる「バイスペシフィック抗体」は、血友病A治療薬エミシズマブとして国内外で申請中です。

中外3

「アクテムラ」はブロックバスターに

ロシュグループに入ったことで、中外はこうして開発した自社品をロシュのネットワークにのせてグローバルに展開できるようになりました。「アクテムラ」はすでに世界90カ国以上で発売され、16年の世界売上高は16億9700万スイスフラン(16年の平均レート1スイスフラン=110円換算で1866億7000万円)。申請中のエミシズマブはグローバルで2000億円、「アレセンサ」も1000億円の売り上げが期待されています。

 

ロシュにとっても、こうした中外製品をグローバル市場で販売できるのは協業の大きな利点。WIN-WINの関係を志向し、中外の自主経営を維持するという当時あまり例のなかった両社の戦略提携は、中外独自の研究開発から世界市場で戦える新薬候補が継続的に生まれるようになった今、成熟期を迎えたと言っていいでしょう。

 

日本にも必ずやってくる再編の波

当たり前のことではありますが、日経ビジネスの報道で改めて認識させられたのは、上場している以上、いつ、どこから買収提案があってもおかしくないということです。ましてや、国境を超えて再編の動きが活発化している製薬業界。日本企業だけがいつまでも蚊帳の外にいられる、というわけにはいきません。

 

独自の海外展開に制約があるというデメリットはあるものの、ロシュと中外の提携を見る限り、外資の傘下に入ることは必ずしも悪いことではないでしょう。非常に稀な例ではありますが、ロシュ―中外と同様の関係が築ければ(もちろん簡単にまねできることではありませんが)、パイプラインへのアクセスや海外市場へのリーチ拡大など、買収される側の企業にとってもメリットは少なくありません。

 

欧米大手の再編の動きに対抗しようとすれば、国内企業同士が合併・統合して規模を拡大すべき、という方向に進むのかもしれません。確実に言えるのは、日本に再編の波が及ばない保障はどこにもないということです。

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