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「秘密厳守」医薬品流通の暗部にメス―「ハーボニー」偽造品 厚労省が再発防止策

更新日

偽造品がさらけ出した医薬品流通の暗部にメスが入ります。

 

C型肝炎治療薬「ハーボニー」の偽造品が流通した問題で、厚生労働省の有識者検討会が当面の再発防止策をまとめました。卸売販売業者や薬局に対し、取り引き時の身元確認や業務手順書への偽造品対策の明記を義務付けることなどが柱。厚労省は今夏にも関連する省令を改正する予定です。

 

一方、焦点となっていたPICS/GDPへの対応や卸売業者の許可基準の厳格化は、今後の検討課題として残されました。偽造医薬品の流通防止に向けた検討はまだ続きます。

 

「秘密厳守」の現金問屋 偽造品流通の背景に

ギリアド・サイエンシズのC型肝炎治療薬「ハーボニー」の偽造品が流通した問題を受け、厚生労働省の「医療用医薬品の偽造品流通防止のための施策のあり方に関する検討会」は6月8日、再発防止策を盛り込んだ中間とりまとめを大筋でまとめました。

 

「ハーボニー」をめぐっては今年1月、奈良県の薬局チェーンで偽造品が調剤され、患者の手に渡っていたことが発覚。その後の調査で、この薬局チェーンと複数の卸売業者から計15ボトルの偽造品が見つかりました。流通の発端となった卸売業者は、無許可の個人から偽造品を購入しており、虚偽の購入記録をつけていたことも明らかに。流通に関与した薬局と卸売業者6社が業務停止命令を受けました。

 

検討会の中間とりまとめでは、いわゆる「現金問屋」で譲渡人の秘密厳守をうたう取り引きが行われていることが問題の背景にあると指摘。薬局や医療機関が在庫を現金化したり、医薬品を安く仕入れたりできる現金問屋は「必要悪」と言われることもありますが、「偽造品の流通を生み出すような取り引きは断固として排除すべき」と厳しい姿勢を示しました。

 

発見された「ハーボニー」の偽造品は、いずれも外箱や添付文書がない状態だったにも関わらず、卸売業者から薬局を経由して患者の手に渡ってしまいました。検討会の中間とりまとめは、この点についても問題視。「偽造品の流通に関わった卸売業者と薬局は、少なくともこうした外形上の相違点に違和感を持ち、特段の行動を取るべきだった」と批判しました。

厚労省の検討会が指摘した「ハーボニー」偽造品問題の背景

 

身元確認厳格化 業務手順に対策明記

厚労省の検討会がまとめた再発防止策は、
・売買時の相手の身元確認を厳格化
・卸売業者や薬局の業務手順書に偽造医薬品対策を明記
の2つが柱。厚労省は今夏にも関連する省令を改正し、再発防止策を法令として位置付ける方針です。

厚労省検討会がまとめた偽造品流通の再発防止策

まず問題の背景として指摘された「秘密厳守」の取り引きについては、仕入れ時や販売時に相手の身元(許可番号や氏名など)を許可証や身分証で確認することを義務付け。あわせて、その確認手段も記録として残すことを求めます。

 

現行の医薬品医療機器等法施行規則では、医薬品の売買を行う際「日付」「品名」「数量」「相手の氏名」を記録・保存することが義務付けられていますが、これに「相手の住所」「ロット番号」「使用期限」などを追加。医薬品を販売する場合は、こうした記録事項を記載した文書を同封することも義務付けます。

 

管理薬剤師の責務に偽造品対策

卸売業者や薬局の業務手順書には、▽取り引き相手の適格性の確認▽品質に疑いのある医薬品を発見した場合の対応▽医薬品を返品する場合の取り扱い――といった偽造品対策を明記するよう求めます。

業務手順書に明記するように求められた偽造医薬品対策

 卸売業者の営業所や薬局の店舗ごとに配置が義務付けられている管理薬剤師については、その責務に偽造品対策のための対応(仕入先や販売先の確認、返品された医薬品の最終処分の判断など)を位置付けることも中間とりまとめに明記。管理薬剤師の責任については「ハーボニー」の偽造品問題が発覚した当初から指摘されていました。今回の再発防止策では、管理薬剤師が偽造品対策で負うべき責任が明確化されることになります。

 

開封や廃棄も厳しく管理

医薬品の開封や廃棄についても厳しく管理します。

 

「ハーボニー」の偽造品は外箱がない状態で流通していたことを重く見て、卸売業者や薬局がメーカーによる封を開けて販売する場合、開封した卸の営業所や薬局の名前や住所を表示。薬局が販売包装単位で調剤する場合は、再び流通することを防ぐため、外見から調剤済みとわかるような措置を検討するよう求めています。医薬品を廃棄する場合には、その記録を卸の営業所や薬局の帳簿に残すことも義務付けます。

 

PIC/S-GDPは今後の検討課題

一方、注目されていたPIC/S(医薬品査察協定・医薬品査察協同スキーム)のGDP(Good Distribution Practice=医薬品の適正流通の基準)ガイドラインへの対応は、今後の検討課題として結論が先送りとなりました。

 

日本では現在、医薬品の製造から出荷までは「GMP(Good Manufacturing Practice=医薬品の製造管理・品質管理の基準)」が省令として定められていますが、出荷後の流通を管理する制度的な規制はありません。現状では、日本医薬品卸売連合会(卸連)の自主基準「JGSP」で適正流通の管理を行っています。

 

厚労省が検討会に示した資料によると、PIC/SのGDPガイドラインは国内の既存の制度と共通している部分も多い一方、施設や機器、輸送など医薬品の保管・管理にあたって求められる事項では国内規制との乖離が大きいといいます。

 

卸連の自主基準「JGSP」は卸連加盟業者にしかその効力が及ばず、現金問屋を介した流通は網の外。卸売業者全体に対する公的な規制がなかったことも、「ハーボニー」の偽造品流通を招いた理由の一つと言えます。一方、PIC/S-GDPによる流通管理の厳格化は、卸売業者に大きな負担となる可能性も。厚労省の検討会でも「すぐに国内で形にしていくのは難しい」といった意見が上がりました。

 

卸売業者の許可基準の厳格化や、薬局開設者・管理薬剤師の責任・責務など、PIC/S-GDPへの対応とともに積み残された課題は少なくありません。偽造医薬品の流通防止に向け、早急な検討が求められます。

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